ジャニーズ性加害問題の会見にあった「ファン心理」を利用する不誠実さ。タレントのためにできることとは

故・ジャニー喜多川氏による性加害問題の会見の内容が全く納得できるものではありませんでした。そもそものジャニーズ事務所が今後も存続し得る前提の間違い、社名の変更すらしない浅はかさ、ファンの心理を利用しているような不誠実さについてまとめます。

ジャニーズ事務所
ジャニーズ事務所

失意と憤りが隠せません。9月7日に故・ジャニー喜多川氏による性加害問題の会見が行われましたが、到底納得できるものではありませんでした。

「法を超えた(被害者への)救済や補償が必要」と言及はされているものの、具体的な施策はほとんど打ち出されず、あまりに反社会的な発言があったのです。そして「応援するファンの気持ち」を利用しているような言葉の数々が、とても不誠実で卑怯なものとしか聞こえませんでした。その理由を記していきましょう。
 

事務所の存続があり得ない状況で、社名を変えることすらしない

まず信じられなかったのは、まるで「ジャニーズ事務所が今後も存続し得る」前提で会見が進んでいるように感じられたことです。今後は被害者への補償と救済のための組織にして、タレントは他事務所に移り、そして解散する。個人的にはそれ以外の選択肢はないと考えていたのですが、なんと「社名の変更すらしない」ことを、新社長に就任した東山紀之氏が告げたのです(後に変更の検討の余地もあると意見を変えている)。

作家・本間龍氏からの「数百人、下手をしたら数千人の人々を不幸のどん底に叩き落してきた。そういう状況の中で、その名前を今後も冠していくのは、あまりにも常識外れ」「それはヒトラー株式会社と言っているのと同じ」といった痛烈な批判に対し、東山紀之氏が答えたのは「おっしゃる通り」「ただ、僕らはファンの方に支えられている。それを変更することがいいのかと考えた。今後はそういうイメージを払拭できるほど、みんなで一丸となって頑張っていくべきなのかなと、そういう判断を今はしています」だったのです。

まず「未成年の子どもへの性加害を何十年も続けてきた組織」という事実は未来永劫、絶対に払拭(ふっしょく)などできるはずがない巨大な犯罪および人権侵害です。払拭という言葉を使うこと自体が、被害を訴えた方々に対してあまりに不誠実ですし、「一丸となって頑張って」と言及することも異常です。後述もしますが「ファンの方に支えられている」という言葉も、ファンの気持ちを利用し責任転嫁しているような卑怯さと、問題との齟齬(そご)を大いに感じるのです。

事実、性被害を受けたことを告白した元ジャニーズJr.の二本樹顕理氏は、「ジャニーズという言葉を聞くと、過去の被害体験を思い出してしまったり、フラッシュバックが起きてしまうことがある」と語っています。社名を変えたからといって根本的な解決にはなりませんが、被害を訴えた方のことを考えた、最低限の対応もできないジャニーズ事務所に強い嫌悪感を覚えるばかりです。
 

ファンの心理を利用しているような「感謝」

さらに失望したのは、「ショックを受けているファンへ、今回のことをどう謝罪、説明するか」という質問への答えです。ここでも、ジャニーズ事務所が今後も存続し、努力さえすれば性加害を続けた企業であるイメージを払拭できるかのような前提で話をしているように思えましたし、加えてファンの心理を利用しているように思えたのです。

例えば、藤島ジュリー景子氏は「全く変わらずタレントを応援してくださっているファンの皆様には感謝の気持ちしかない」と、井ノ原快彦氏は「Jr.の子にいつも言っているのは、ファンの皆さんがどんな気持ちでライブに来ているのか、何日も前から高いチケットを買って、おしゃれをして来てくれていることを考えてステージに立とう」などと答えました。

ここで、ジャニーズのファンの方にこそ告げておきたいのですが、ファンへの感謝の気持ちや、ステージに立つまでのサービス精神は、性加害問題とは全くの別の話です。これらの言葉が心からのものだとしても、この会見の場でうれしいと思ってしまうこと自体が危険ですし、それは論点のすり替えにもつながりかねません。

さらに、「全く変わらずタレントを応援してくださっているファンの皆様」という言葉にも、非常に居心地の悪いものを覚えます。ファンも、多かれ少なかれ世界的に報じられている性加害問題に対して複雑な気持ちを抱えているはずです。ライブに足を運ぶ、配信された動画を見るといった行動そのものはともかく、心境を全く変えることなく応援できているファンなどいるのでしょうか。むしろ、「全く変わらずに応援してくれる」人をファンと呼び、事務所側が感謝をすると表明することで、それのみがファンの在り方だと誘導しているような嫌らしさを感じます。

そもそも、ファンが安心してタレントを応援するために事務所側ができることは、タレントをほかの事務所に移籍させることであったり、ジャニーズの名前を取り下げたり、性加害の疑惑のある内部のタレントではなく外部の者を社長に就任させるといった、具体的な施策だったはずです。タレントそれぞれの今後を長いスパンで考える上で、最低限のことすらできないジャニーズ事務所には、ファンこそが強い怒りを覚えるべきでしょう。特に、井ノ原快彦氏という、好感度が高く、また「演技」も見事な俳優が言うからこそ、そこは見誤ってはならないと思うのです。


>次のページ:彼らは、グルーミングや洗脳から抜け出せない「被害者」でもある
 
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