失敗したって成功したって結果はどっちでもいい
では、サッカーの指導と子育てに、共通する部分はあるのだろうか。いわば“先取り”で大学生と接することで、これからの子育てに参考となる点はあるのか。「大学生にまでなったら、人間的にもある程度完成されていますし、今の子育てとはまた違うと思います。ただ、どちらも子どもの意思を尊重してあげることは、すごく大事でしょうね。僕は学生たちを指導する時も、子育てでも、声を荒らげて怒ったことは1度もありません。子どものやることを頭ごなしに否定せず、前向きなトライに対しては、常に『ナイスチャレンジ』と声をかけてあげるようにしています」
「失敗したって成功したって、結果はどっちでもいいんです。それをやろうとしたことに意味があるし、その過程を大事にしてあげたい。良いプレーをして負ける試合なんてざらにある。一番ダメなのは100%を出さないで負けることなんです。指導者としても、親としても、大事なのは失敗した時のフォロー。そこから立ち上がろうとする子どもたちを、いかに支えてあげられるかでしょうね」
林自身がトップアスリートになれたのも、子どもの意思を尊重し、前向きなチャレンジに寄り添い、支える両親の存在があったからに他ならない。
自分の子どもが将来なれるなら、東大生かトップアスリートか──
では最後に、究極の質問を投げかけてみる。トップアスリートか東大生か──。自分の子どもが将来なれるとしたら、どちらがいい?「それは東大に入ってほしいですよ(笑)。いや正直、僕自身には子どもをどんな学校に入れたいとか、どんな仕事に就かせたいとかって、まったくないんです。元気で、優しい子に育ってくれれば十分です」
それでも、祖母(元女子サッカーの八王子選抜選手)と父のアスリート遺伝子を引き継げば、未来のなでしこジャパンも夢ではないかもしれない。しかし、「お子さんたちにサッカーはやらせない?」と尋ねると、娘を溺愛する父の表情になって、こう即答する。
「基本的にはやらせたくないです。自分と同じ苦労をさせたくない……怪我とかもしちゃうし(笑)」
【連載:アスリートの育て方 ーVol.5ー】
>文武両道だからこそ意味がある。元Jリーガーで東大サッカー部前監督、林陵平の「考える力」を育んだ両親
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林 陵平 プロフィール
1986年9月8日生まれ、東京都八王子市出身。ヴェルディ・アカデミー、明治大学を経て2009年に東京ヴェルディとプロ契約。柏レイソル、モンテディオ山形、水戸ホーリーホック、東京ヴェルディ、町田ゼルビア、ザスパクサツ群馬で大型ストライカーとして活躍し、2020年シーズンを最後に現役を退いた。引退後は解説者に。2021年1月から約3年間、東京大学ア式蹴球部を監督として指導し、2023年10月9日をもって退任した。
吉田 治良 プロフィール
1967年生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。2000年から約10年にわたって『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を務める。2017年に独立。現在はフリーのライター/編集者。