後れが指摘される、日本の性教育。元小学校教師が考える「問題点」と、学校で教える「意味」

「世界の他の国々と比較すると後れている」といわれる、日本の性教育。教師歴20年以上で子育て・教育の専門家である鈴木邦明先生に、日本の学校現場における性教育の実態と、そこから見える問題点についてお話を聞きました。

日本の性教育は“後れている”と言われるが……
日本の性教育は“後れている”といわれるが……

「日本の性教育は、世界の他の国々と比較すると後れている」といわれていますが、実際はどうなのでしょうか? 元小学校教師で子育て・教育の専門家である鈴木邦明先生に、日本の学校現場における性教育の実態と問題点、さらに学校で性教育をすることの意味について語っていただきました。
 

実は日本でも、発達段階に合わせた性教育が行われている

まずは学校現場における性教育の実態について。鈴木先生は、学校ごと、学年ごとに専門知識を持った教師によって指導されていると言います。

「小学校では、体育の保健分野を中心に、特別活動や道徳的な要素として性教育を行います。3、4年生になると保健領域の学習が本格的にスタート。体の変化や初経、精通などについて学習します」

中学生からはさらに内容が詳細になっていきます。

「中学校の保健体育では、生殖機能の成熟に伴い月経や射精により妊娠が可能となること、性衝動が生じることなどのほか、性感染症に関しても学びます。

高校生になるとさらにステップアップし、生涯を通じて健康を保持するための学びとして、受精、妊娠、出産とそれに伴う健康上の課題や、人工妊娠中絶の心身への影響などを学びます。また、性感染症の予防のための個人の行動選択や、社会の対策について理解することも目標となっています」

発達段階や内容によって、男女を分けたりクラス単位で行うなど工夫しながら指導が行われているとのこと。一方で、日本の学校における性教育は大きな問題点も抱えていると鈴木先生は指摘します。

 

“核心”には触れない日本の性教育……背景にあるのは「はどめ規定」

それが、性交渉については扱う機会がないという現状。理由の1つが、文部科学省が定める教育課程の基準「学習指導要領」における「はどめ規定」と呼ばれる文言なのだそうです。

「例えば、小学5年生の理科では『人は母体内で成長して生まれること』を学ぶとしながらも、『人の受精に至る過程は取り扱わないものとする』という記載があります。さらに中学1年生の保健体育では『受精・妊娠を取り扱う』としながらも、『妊娠の経過は取り扱わないものとする』とされています。

せっかく段階的なカリキュラムが組まれているのに、肝心な部分をぼかしているので、子どもの理解もぼんやりしたものになってしまうのが日本の性教育の問題点だと思います」

また、教師が置かれている複雑な状況もあると鈴木先生。

「学習指導要領は最低基準なので『絶対に“核心”に触れてはいけない』のではありません。状況次第で扱うことは可能なのですが、非常にデリケートな問題なので、学校ではなかなか扱いづらい。たとえば昨今では、意識の高い先生が革新的な授業をするとSNSで炎上してしまうケースがありますし、実際に議会で『○○中学の○○先生の発言は不適切ではないか』と追及された例もあります。

行動を起こすことで周囲から否定的な反応が返ってくることを恐れ、先生たちが萎縮し、避けてしまっているのが現状です」

 

小学校から性交渉を取り扱う国もある

All Aboutニュース編集部では、子どもを持つ男女を対象に性教育に関するアンケートを実施し、160人から回答を得ました。学校の授業で性交渉について取り扱いが避けられている傾向がある現状に関して、多くの人が疑問を持っていることが分かりました。

多くの保護者が学校教育で性行為について触れるべきと考えている
授業で性交について教えることは避けられる傾向に。どう思う?

「ヨーロッパでは、性交渉についても学校教育カリキュラムに組み込まれています。ドイツでは小学校、フランス、オランダ、フィンランドでは中学校で扱うなど、世界では早い段階で“核心”に触れています。実際に、ユネスコらが作成した『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』の中では、5歳から8歳の間で赤ちゃんがどこから来るのかを説明するのが目標となっています」

日本でも、望まない妊娠などを避けるために世界レベルでの性教育が必要だ、と考える教師も多くいるようですが、現状の性教育の内容を大幅に見直す動きは進んでいないように感じます。その理由として、性に関する問題をなんとなく触れてはいけないもの、触れにくいものとして扱ってきた日本の文化的背景が大きいと鈴木先生は指摘します。

「最近はLGBTQの問題も含め、性教育の内容に関する学校現場の意識変化は確実に起きています。性的指向や性自認に関する配慮に関しても前進している感覚はあります。現場が先に進んで、あとから法などの整備が追いついてくるのかもしれませんね」

 

「質を整えた性教育」ができるのは、学校の良さ

「たとえば、生理用品に触れて実際につけてみる、という男子高校生向けの生理セミナーを生徒主催で実施した学校もあります。本来なら男子高校生が触れることがないものを学校だからこそ実現できた好例で、性教育における学校教育の意味は大きいと思います。

特に義務教育段階において学校で性教育を行う良さは、『みんなに教えられる』ことにあります。家庭だけに任せると家庭によって教育レベルに濃淡が出てしまいますが、学校では質を整えることができるのがメリットです」

もちろん、学校だけでは難しいのが性教育。学校と家庭の両方が関わる形で子どもたちの学びにつなげられます。

「学習指導要領で規定されれば、“核心”に触れる性教育もやりやすくなる可能性はあると思います。ただ、現状の学習指導要領の中でもやり方次第で伝えられることはあるのではないでしょうか。

例えば授業参観で、単なる知識の伝達だけではなく家族や命のことなども絡める形で、自然な流れで性交渉についても触れるなど、子どもだけでなく、教師と子ども、そして親も考えるきっかけになるような授業ができるといいなと思います」


この記事の監修者:鈴木邦明さん

首都圏の公立小学校に22年勤めた後、短大、大学での教員養成、保育者養成に移り、現在に至る。現在は、大学での講義を中心に、保護者向けに子育て・教育、教員向けに授業方法・学級経営などのテーマで執筆、講演などに幅広く活躍中。


この記事の筆者:古田綾子

雑誌・Webメディアの編集者を経てフリーランスライター。2児の母。子どもの受験をきっかけに教育分野に注力。自らの経験に基づいた保護者視点で、教育界の生の声やリアルな体験談などを取材・執筆。
 

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