性犯罪の抑止力になる? 元小学校教師が語る、日本版DBSへの「期待と懸念」

子どもと関わる場所で働く人の性犯罪歴を確認する目的で、創設が検討されている「日本版DBS」。導入された場合、子どもへの性犯罪は減るのでしょうか? 元小学校教師である鈴木邦明先生にお話を聞きました。

「日本版DBS」が導入された場合、学校現場への影響はある?
「日本版DBS」が導入された場合、学校現場への影響はある?

子どもと関わる場所で働く人の性犯罪歴を確認する制度「日本版DBS」の導入に向けた動きが、メディアで話題となっています。導入されれば、学校現場での性犯罪は減るのでしょうか? 小学校教師歴20年以上で子育て・教育の専門家である鈴木邦明先生に、この制度の意味や影響、問題点をうかがいました。

 

公にならない場合もある、学校現場での性犯罪

昨今、頻繁に起きているように見える教育機関での性犯罪ですが、学校現場における性犯罪は昔から存在していたと鈴木先生は言います。

「今ほど公になっていなかっただけで、性犯罪関連のトラブルは昔から存在していました。教師を処分するには事件を公にしなければなりませんが、センシティブな問題なので被害者側から『事を大きくしないでほしい』と言われると、双方の合意のもとで大ごとにしない場合も多いのです。被害者の心理に付け込んだ教師にとっては都合のいい類の犯罪だったかもしれません。

ただ、最近はSNSなどを発端として事件が拡散されやすくなり、報道される機会も増えて多くの人の耳に入りやすくなりましたね」
 

「日本版DBS」が性犯罪の抑止力に?

後を絶たない子どもへの性犯罪。これらを未然に防ぐ目的で検討されているのが「日本版DBS」です。

DBS(Disclosure and Barring Service) は「無犯罪証明書」といわれるもので、イギリスなどの主要先進国は子どもなど弱者に関わる仕事をする人に“犯罪歴がないことの証明”として提出を求めています。

こうした世界的な流れを受けて、こども家庭庁は日本版DBSの導入に向けた検討を開始。2023年9月5日の第5回有識者会議で報告案を作成し、学校や保育の現場を対象に日本版DBSを導入する方向でとりまとめました。

この現状について、鈴木先生は次のように受け止めています。

「日本版DBSが導入されることによる一定の効果はあると思います。これまでは公立学校採用試験に合格した人の性犯罪歴を知ることはできませんでした。

現状では、教員がわいせつ行為で逮捕されても3年で復職可能で、保育士の場合は2年で復職ができてしまう。性犯罪の前科がある人を教育現場に入れないために、チェックする機会が1つ増えるので、確実にプラスに働くとは思います」
 

ただし、“意味のない制度”になるリスクも……

一方で鈴木先生は次のように問題点を指摘します。

「有識者会議の報告書で報告された対象事業者の範囲は、『学校、認定こども園、保育所、児童養護施設、障害児入所施設等』に限定しています。認可外保育所や学童保育、学習塾やスポーツなどの習い事などのその他の民間業者には『任意』としていますが、全ての施設に義務化しないとトータルとしては意味がないのではと考えています。

子どもを狙った犯罪は学校だけで起きているわけではありませんから、すり抜けられるような制度では意味がなくなってしまいます」

ではなぜ、このような隙を生む恐れのある内容になっているのでしょうか?

「1つは、憲法の『職業選択の自由』を侵害しないためです。もう1つは『犯罪者の更生』の観点からで、日本では刑期を終えた後、再び罰金刑以上の刑に処せられるような罪を犯すことなく10年が経過した場合、『刑が消滅する』(※刑法第34条の2)という特徴があります。

現状の日本版DBSにおいても、チェック対象が『採用から10年以内の性犯罪歴』となっているのはそのためですね」

子どもを狙った性犯罪は、学校現場だけでなく、最近では大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師の男性が教え子の女子児童を盗撮した事件が記憶に新しく、過去には、2020年にはベビーシッターのマッチングアプリ「キッズライン」を使用した、ベビーシッターの男性2人による幼児へのわいせつ事件も起きました。

スイミングクラブのコーチによる性的暴行など、習い事の現場でも事件が起きています。現状の日本版DBSでは初犯に関してのチェック機能もないため、導入されても大幅に性犯罪が減るとは考えにくいのかもしれません。
 

子どもの性被害を防ぐため、今からできることは?

日本版DBSが性犯罪への抑止力となるよう期待したいところですが、日本版DBSに関する法案の提出時期は未定となっており、いつ、どのような形で制度化されるのかは分からない状況です(2023年10月12日現在)。性犯罪から子どもを守るために、今からできることはないのでしょうか。

「本来、教師は子どもたちを指導し守る立場であるべきですが、もし現場の教師にそれができていない場合は、管理職の存在が重要になってきます。教室は、教師と子どもしかいない密室。そこで危ない言動があっても同僚ですら気付く機会は少なく、もし気付いても指摘しにくい雰囲気があります。ましてや、子どもは声を上げにくい関係性でもあるでしょう。

子どもたちへの性教育はもちろん大切ですが、教師、そしてその指導的立場である管理職が、日頃から目を光らせる意識が必要だと思います」

また、少しでも心配なこと、違和感があれば、ぜひ保護者から学校に伝えてほしいという鈴木先生。

「距離の近い先生が、『フレンドリーでやさしい先生』なのか『過剰なスキンシップをする性加害者』なのか、子どもが判断するのは難しいと思います。子どもの様子がおかしい、心配なうわさを耳にした、ということがあれば、ぜひ学校に伝えてほしいです。決定的な事実や被害がなかったり、ささいなことであったとしても、1つ1つの声が抑止力につながると思います」

もちろん、学校内の管理職、校長や副校長にも言いにくい場合などは、ワンストップ支援センター「#8891」、場合によっては警察「#8103」に電話し、相談してみることがおすすめだという鈴木先生。子どもが危ない目に遭った場合は、迷わず行政や公的機関に助けを求めましょう。

この記事の監修者:鈴木邦明さん
首都圏の公立小学校に22年勤めた後、短大、大学での教員養成、保育者養成に移り、現在に至る。現在は、大学での講義を中心に、保護者向けに子育て・教育、教員向けに授業方法・学級経営などのテーマで執筆、講演などに幅広く活躍中。

この記事の筆者:古田綾子
雑誌・Webメディアの編集者を経てフリーランスライター。2児の母。子どもの受験をきっかけに教育分野に注力。自らの経験に基づいた保護者視点で、教育界の生の声やリアルな体験談などを取材・執筆。

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