妊婦がマタニティマークをつけるのは「緊急時のため」
立ち返って、マタニティマークは「何のため」にあるのだろうか。厚生労働省のホームページには「妊産婦さんにやさしい環境づくりを推進するもの」とある。マタニティマークは「周囲にサポートしてもらうため」、例えば、満員電車などで席を譲ってもらうため、にあると筆者は思い込んでいたが、どうやらそれは違ったようだ。
ピジョン株式会社が2020年5月、子どもがいない20~50代の一般男女200人、そして20〜30代の妊娠中or1才未満の子どもがいる女性400人を対象に実施した調査によると、一般男女が思うマタニティマークをつける理由の1位は「周囲の人にサポートしてほしいから(80%)」だった。
しかし、妊婦がマタニティマークをつける理由のトップは「緊急のときに、自分が妊婦だということが周囲にわかるから(83.1%)」で、「周囲の人にサポートしてほしいから」と回答した妊婦はわずか29.4%。一般男女の認識と約50%もの差があったのだ。
「思いやり」の心を持った行動を
「妊婦がマタニティマークをつけている理由は、(席を譲るなど)サポートしてほしいわけではなかったのか……」自分の認識を反省しながら、筆者はふと、先ほどの電車の妊婦女性に目をやった。男性が譲った席にはすでに別の人が座っていて、女性は最後まで席に座ることはなかった。
一方、席を譲った男性は、女性から少し離れた入り口近くに大荷物を2つ抱えて立っていた。
電車が品川駅に停車し、女性が電車を降りようとしたその時。男性と女性の目線がぴたっと合った。そして、女性は電車を降りる際、男性に向かって小さく会釈をしたのだ。男性は大きな荷物を2つ抱えたまま、慌てて会釈を返していた。
「妊婦さんだ! 席を譲らなきゃ」と、とっさに席を譲った男性。大荷物を抱えた男性に席を譲ってもらい、心の中で「申し訳ない」と思っていた妊婦の女性。
互いの思いやりが、黙っていても分かり合えるような光景だった。
この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセイ記事などを担当。
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