長時間労働を「全否定したくない」人々
さて、このような話を聞くと、30~50代のベテランの皆さんはきっとこう思う。「今の自分があるのは若手の時に寝る間も惜しんでハードに働いていたからだ」とか「長時間労働が悪なんて生ぬるいことを言っているから、日本経済はダメなんだ」と感じる人も多いだろう。
日本では、「長時間労働」「パワハラ」「暴力指導」など、国際社会では非人道的な行為とされているものを、「全否定したくない」という人々が一定数いる。誤解を恐れずに言ってしまうと、日本社会は人材マネジメントの中に最初から「過重労働」「ハラスメント」「鉄拳制裁」が組み込まれていると言ってもいい。
では、なぜこうなってしまうのか。いろいろなご意見があるだろうが、筆者はやはり日本企業のルーツが軍隊ということが大きいと思っている。
ご存じない方も多いだろうが、年功序列、定期異動、定時出社、上司の命令は絶対など、多くの日本人が「日本企業特有の文化」と信じていることのほとんどは、戦時体制下に軍隊の指導によって社会に定着したものである。
当時、国民総動員体制下で、総力戦をしていた日本では、「民間企業は生産性を上げるために軍隊の優れた組織マネジメントを導入せよ」というお達しが出た。実際に軍隊から指導員がきた。彼らのもとで軍隊式の働き方改革を受けた民間人は「産業戦士」と呼ばれた。戦後も基本的には、同じことが繰り返されている。
焼け野原から経済復興を経験した人のほとんどが、軍隊で復員した経験のある人や「産業戦士」なので当然、戦後のベビーブーマーたちに「軍隊式の働き方」を叩き込んだ。そうして、「産業戦士2世」となった人々が次の世代にも継承する、という感じで「軍隊式の働き方」の世代間連鎖が続いた結果が、現在の日本企業である。
こういう日本企業のルーツを踏まえると、日本人の「長時間労働」のルーツも産業戦士にあることがよく分かる。戦局が悪化して、戦地で「玉砕」や「全滅」というニュースが報じられると、日本国内で生産をしている産業戦士の間で、「休みをもっと少なくして、もっと長く働くべきだ」という声がでる。