2023年6月23日、性的少数者(LGBT)への理解を広めるための「LGBT理解増進法(LGBT法案)」が施行された。さらに内閣府に担当の部署も設置して、今後、理解を進めるための基本計画を策定するという。
性的少数者に対して「不当な差別はあってはならない」と規定しているこの法律は、大変な物議を生んだ。というのも、十分に議論を尽くさないまま成立を急いだという批判の声が上がったからだ。
LGBT法案を“急いだ”日本、公共トイレや風呂での懸念が残る
例えば、男性が女性を自称することで女子トイレや女風呂などを使うといったケースが起きる可能性を、反対派からは指摘された。そこで法律には「全ての国民が安心して生活できるよう留意する」との文言が加わっているが、それでも理解増進法を悪用した事件が起きないかと心配する向きもある。
LGBTの問題では、もともとLGBTについて日本よりも前から議論が続けられてきたアメリカの例が参考になる。現在アメリカでは、LGBT差別を禁止する法律が多くの州で制定されているが、一方で、LGBTの権利に反対する法律も各地で生まれている。AP通信によれば、アメリカ全土で525件以上の反LGBT法案が提出され、2023年6月の段階では、70件以上が可決している。
アメリカでは、ゲイやレズビアンについては寛容な文化がある。性の対象が同姓である性的指向は人それぞれの権利だと広く受け入れられて、その流れから同性婚についても2022年12月に「結婚尊重法」が連邦法として成立した。これまでは最高裁判例で結婚は許されていたが、この法律によって合法化した。
トランスジェンダーの性自認の問題が物議に
ところが、こうした指向以外で議論になるのが、トランスジェンダー(性同一性障害など心と体の性が一致しないと認識する人)の性自認の問題だ。本人が自認しているという範囲を超えていくと、他人を巻き込んだ物議になる。
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