とにかく「美しく楽しいビジュアル」に実写映画化の意義がある
※以下、重大なネタバレと言えるポイントではないとは思いますが、実写映画版『リトル・マーメイド』の中盤の展開に触れています。予備知識なく見たい方はご注意ください。今回の実写映画『リトル・マーメイド』の素晴らしさは、何より美しい海の中のビジュアルにあるのではないでしょうか。
特に作品を象徴する『アンダー・ザ・シー』のミュージカルシーンは、メロディアスな音楽と見事にシンクロした、カラフルな海の生き物たちの踊りが楽しくて仕方がありませんし、その中心にいるハリー・ベイリーが本当に美しく見えます。
その正反対の恐ろしい光景、ハラハラドキドキのアクションシーンもまた、アニメ版とはまた違った魅力を持たせており、その点でも間違いなく実写映画化の意義がありました。
そして、全編にわたりハリー・ベイリー演じるアリエルが美しいだけでなく、キャラクターとして魅力的で、とても愛おしいのです。海の中で父親から抑圧される環境にいて自分の心の内をさらけ出す様は胸が締め付けられますし、だからこそ人間になり陸に上がってからの人間の文化や、新しいことに1つ1つ目を輝かせる様が本当にかわいらしく思えてきます。
中盤でアリエルが人間の市場に足を運ぶ場面は白眉。ここは、海の中のカラフルな光景に全く引けを取らない、多様性にもあふれた美しく楽しい文化が「そこにある」場面なのです。それもまた、市場の中にある実際の「もの」が映し出されてこそ際立つ、実写映画ならではの魅力でしょう。
もともとの物語を大切にしつつ、多様性をたたえた物語にアップデート
そして、昨今のディズニー映画らしく、物語には多様性のメッセージが打ち出されています。それでいて、無理やり入れ込んだようなものでもなく、もともとの『リトル・マーメイド』の物語を大切にしつつ、今の時代だからこそ響く「対立する場所に住む者たち」を心理をよりクローズアップさせたバランスの内容に仕上がっていることも称賛すべきでしょう。例えば、劇中では「海では陸の人間が危険だ」「陸では海の人魚が危険だ」という風説が“当たり前”になっており、互いに排他的な立場にいます。現実の世界でも、同じような異なる場所にいる文化に、あしざまな印象を抱いてしまうことはあるはずです。
そこに、今回の実写映画では、前述したように「海の中も人間の世界もどちらも美しく楽しい」ビジュアルを持って存分に示しています。かつ物語上でも異文化との交流そのものと、相互理解の素晴らしさを見事に提示できていたのです。
冒頭に掲げた、作品そのものが批判への「回答」の理由と思えた理由もそこにあります。ハリー・ベイリーのキャスティングが、公開前に批判を受けていたとしても本編では圧倒的なパフォーマンスと愛らしさだったこと、ビジュアルを含めた作品のクオリティそのものに絶賛が相次いだこと以上に、今回の実写映画『リトル・マーメイド』は多様性そのもの、異なる文化を「認める」ことの意義を訴えているのですから。
個人的にはアリエルの姉妹たちの描写に対する不満点もありますが、それ以外では本当に見事な実写映画化作品であったという他ありません。ひと組の男女のラブストーリーという枠にとどまらない、大げさでなく世界平和への願いがたっぷりと込められている本作を、ぜひ映画館でご覧になってほしいです。
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