ヒナタカの雑食系映画論 第23回

物議の『リトル・マーメイド』がディズニー実写史上“最高傑作”だった理由。作品自体が「批判への回答」に

実写映画『リトル・マーメイド』が本当に、本当に素晴らしい作品でした……! 公開前には批判的な声も届いていた本作が、なぜ「ここまで」の傑作になったのか、その理由を記していきます。(C) 2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

“逆張り”の配役ではない。アリエル役に選ばれた「シンプルな理由」

肝心なのは、実際の映画本編におけるハリー・ベイリーがどうだったか、ということでしょう。

結論として、歌唱力、演技力、愛らしさ、その全てに至るまで、完璧としか言いようがありません。そのパフォーマンスの一端は予告編などからも垣間見ることができますが、映画館で本編を見ればこそ、文字通りに圧倒されるのではないでしょうか。
 

アリエル役に選ばれたそもそもの理由もまた、「ただただ、ハリー・ベイリーが素晴らしいから」という、シンプルな理由に集約されます。事実、ロブ・マーシャル監督が最初にオーディションしたのがベイリーで、その後、何百人もの才能あふれるアリエルの候補者に会ったにもかかわらず、“誰よりも美しい歌声”を持つ人魚姫を体現できるのは、最後までベイリーまでしかいなかったのだそうです。

その上で、ロブ・マーシャル監督は「私たちは単にこの役にベストな人材を探していただけ、それだけのことです」「あらゆるタイプの、あらゆる人種の候補者に会いました。そこに意図は全くありませんでした」「監督として1番望ましいのは、(オーディションに)やってきた役者が『これは私のための役だ』と主張しているかのようにピッタリとハマることですが、彼女の場合がまさにそれでしたね」とも答えてもいます。
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つまりは、多様な人種の俳優に向けてオーディションはしていたものの、「アニメ映画版では白人に思えた役にアフリカ系の俳優をあえて選ぶ」といった、“逆張り”のようなキャスティングではないのです。
 

彼女がアリエルを演じる“必然性”は、作品を見れば「分かる」はず

昨今のディズニー作品は多様性を意識した作劇やキャスティングをすることが多く、それらが過剰なポリティカル・コレクトネスであると批判を受けることも多いですが、本作のベイリーはそうした配慮とは関係なく、本人の魅力、アリエルを演じられる説得力、最高の歌唱力があってこそ選ばれたということを知ってほしいです。百聞は一見にしかず、どんな言葉を並べるよりも、本編を見れば間違いなく、そのことが「分かる」はずです。
 
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また、エリック王子役のジョナ・ハウアー=キングがイギリスの俳優、アリエルの父であるトリトン王役のハビエル・バルデムがスペインの俳優であることから、植民地化の歴史や、家父長制に対しての問題があるという指摘もされていますが、こちらは後述する「多様性」を示した物語そのもので、「そうではない」とはっきりと示していると思います。


>次のページ:『リトル・マーメイド』で実写映画化の「意義」を感じたポイント
 
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