もうこれ以上、過去のことは蒸し返すんじゃないぞ――。行間からはそんなジャニーズ事務所の強い意志が感じられる。
元ジャニーズJr.の男性が、在籍時に前代表のジャニー喜多川氏から性被害を受けたと記者会見を催して告発したことを受けて、ジャニーズ事務所が発表したコメントのことだ。以下、共同通信社への回答を引用しよう。
「弊社としましては、2019年の前代表の死去に伴う経営陣の変更を踏まえ、時代や新しい環境に即した、社会から信頼いただける透明性の高い組織体制および制度整備を重要課題と位置づけてまいりました。
本年1月に発表させていただいておりますが、経営陣、従業員による聖域なきコンプライアンス順守の徹底、偏りのない中立的な専門家の協力を得てのガバナンス体制の強化等への取り組みを、引き続き全社一丸となって進めてまいる所存です」
過去よく使われた「ゼロ回答」手法
ご覧のように、今回の告発はもちろん事実関係への言及はゼロで、おまけに「関係者の方にはご心配をおかけして申し訳ありません」という決まり文句すらない。
「なんて誠意がない企業だ」とあきれる人も多いだろうが、実はこれは企業危機管理の世界では特に珍しくない。会社としてこれ以上、触れてほしくないスキャンダルについては、以下のような3つの「ない」で対応をすべきという考え方がある。
・スキャンダルの存在そのものを認めない
・事実関係についても一切言及しない
・とにかく自社の「非」を認めない
いわゆる「ゼロ回答」というやつだ。世間からどれほど叩かれようとも、そのスキャンダル自体を認めてしまうことの方がリスクなので、木で鼻をくくった回答でやり過ごすというもので、筆者の経験では、法的視点で危機管理に臨む企業の顧問弁護士などが文面を作成していることが多い。
このように聞くと、「いいじゃないか! うちの社長のスキャンダルが発覚したらこのコメントをコピペさせてもらおう」と考える企業関係者も多いだろうが、それはおすすめしない。
令和の今では「悪手」
実はこのような危機発生時に「ゼロ回答」で鎮火させるというのは今から30年くらい前によく使われた手法であって、令和の今では「悪手」だ。
マスコミから「企業の社会的責任」「説明責任を果たしていない」などボロカスに叩かれ、週刊誌やネットニュースにも悪い話が次から次へと出て、顧客や株主からは「舐めてんのか」というお叱りの電話が朝から晩まで鳴り響く……という感じで、火だるまになること間違いなしの「非常識対応」だ。
つまり、トップのスキャンダルをガン無視するような広報対応は、ジャニーズ事務所など一部の限られた企業だけに許されているものであって、全ての企業に汎用性のあるものではないのだ。
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