ヒナタカの雑食系映画論 第11回

スラダン、すずめ、トップガンだけじゃない。似たテーマの「同日公開」が豊作だった2022年映画を総括!

2022年の映画界の大きな話題と言えば、何が思い浮かぶでしょうか。ここでは、そうではない、ややニッチであるものの知ってほしい、「似たジャンルの映画が同日公開」「ジュブナイル映画」を中心に総括してみます。※画像出典:(C)2022「カラダ探し」製作委員会/(C)CHOCOLATE Inc.

日本ではジュブナイル映画が豊作!

さらに、前述した『すずめの戸締まり』と『かがみの孤城』もそうですが、日本では少年少女の関係性や成長を描いた、いわゆるジュブナイル映画も数多く公開されていました。いずれも話題に乏しいままではもったいない作品なので、大人にも観ていただきたいです。
 

■『グッバイ、ドン・グリーズ!』


テレビアニメ『宇宙(そら)よりも遠い場所』が好評を博した、いしづかあつこ監督による作品。3人の少年たちが、遠くに飛んでいってしまったドローンを見つけるひと夏の冒険をつづる、和製『スタンド・バイ・ミー』的なオリジナル企画のアニメ映画。SNS時代の若者の悩みを見事に昇華していて、後半のとある「飛躍」にも感動があります。
 

■『劇場版 からかい上手の高木さん』


人気漫画を原作としたテレビアニメの劇場版。小豆島(香川県小豆島町)を舞台に、中学校生活最後の夏休みを迎えた、からかうことが好きな女の子と、彼女に振り回される男の子の青春模様を描く、かわいらしくてほほ笑ましい作品。普遍的な「変化」についての物語として秀逸で、予備知識がなくても楽しめます。エンドロールの後にあるシーンまで、ぜひ見届けてほしいです。Amazonプライムビデオで1月10日より見放題となります。
 

■『ゴーストブック おばけずかん』


『ALWAYS 三丁目の夕日』で知られ、2023年11月3日に『ゴジラ』新作の公開が待機している山崎貴監督が、人気の童話シリーズを原作を実写映画化。VFXとCGのクオリティが素晴らしく、子どもたちがワクワクする冒険&ハラハラドキドキのピンチに次々に遭遇するも、どこかほのぼのとしていて、ほほ笑ましい雰囲気に満ちています。新垣結衣さん演じる、ちょっと頼りないけど、友達のように接する先生も魅力的でした。

■『サバカン SABAKAN』

1980年代の長崎を舞台に、少年2人が冒険に繰り出す物語。大人になって思い出す、人生の糧になった、だけどちょっと切ない思い出……そんなノスタルジーに浸れる、こちらも和製『スタンド・バイ・ミー』的な内容に仕上がっていました。子役2人の演技が自然で愛らしく、きっと応援したくなるでしょう。出番が少ないながら存在感のある、草なぎ剛の優しい声と演技にも注目です。(※「なぎ」は、弓へんに前の旧字体、その下に刀)
 

■『雨を告げる漂流団地』


『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康監督による、海に浮かぶ団地でサバイバル生活をすることになる子どもたちの姿を追ったNetflix配信作品。幼い彼らが肉体的にも精神的にもつらい目に遭い続ける、良くも悪くもストレスが強い展開が続くこともあり、評価は賛否両論に。しかし、その「甘やかさない」作劇こそを支持する、その先にある「大切な場所があること」への真摯(しんし)なメッセージが福音になる人もいるでしょう。
 

■『ぼくらのよあけ』


2011年に連載、つまりは10年以上前の知る人ぞ知る名作漫画をアニメ映画化した作品です。子どもたちだけで宇宙人を帰してあげようとするものの、そこに大人たちも「過去」も絡んでくる、王道のジュブナイル×SF映画に仕上がっていました。「ナナコ」というロボットのかわいらしさは、観た人全員が称賛することでしょう。くしくも、前述した『雨を告げる漂流団地』とは子どもたちが活躍する「団地映画」ということも共通しています。

その他、キャラクターの年齢はそれらの作品より少し年齢は上ではありますが、退廃的かつ美しい東京の街並みでパルクールをするNetflix配信作品『バブル』や、不可思議な現象を通じて「共同戦線」を張る男女のラブストーリーでもある『夏へのトンネル、さよならの出口』も、ジュブナイル映画といっていいでしょう。
 
また、実在の能楽師の姿を一種の「バディもの」かつ「ロック・ミュージカル」として描く『犬王』が、第80回ゴールデン・グローブ賞のアニメ映画賞にノミネートされたことも話題になっています。振り返ると、2022年は日本のアニメ映画が大きな躍進をした年といえそうです。
 

こうして、一挙に2022年の「似たジャンルの映画が同日公開」「ジュブナイル映画」の例を挙げてみましたが、世間的に超大ヒットした作品だけに目を向けているだけではもったいない(似たジャンルであっても)多様性が今の映画にはあると、再確認できるのではないでしょうか。

そして、コロナ禍の影響もあるのか、今は超大ヒット映画により観客が集まり、そうではない作品がさらに厳しい興行になるという、格差がさらに広がっている印象もあります。映画をよく観る層に限らず、受け手がその多様性を知ることで、さらなる映画産業の発展と広がりが見込めるのではないでしょうか。ぜひ、年末年始にチェックをしてみてほしいです。
   

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