「感動して鳥肌が立つ」の言い換えは? 意味と使い方を現役アナウンサーが解説

寒さや恐怖を感じたときに「鳥肌が立つ」と言います。一方で、近年では「感動して鳥肌が立った」などの表現も耳にするようになりました。この使い方は正しいのか、ほかに言い換えるとしたらどんな表現があるのか、現役アナウンサーが解説します。

「感動して鳥肌が立つ」の言い換えは? 意味と使い方を現役アナウンサーが解説
「鳥肌が立つ」の正しい意味は? 

先日ラジオを聞いていると、ゲストが「この曲のどこで鳥肌が立つか意識しながら聞いてみてください」というようなことを言った後、パーソナリティが「ゾクッと感じるということですね」と言い換えている場面がありました。
 

「鳥肌が立つ」は、本来、寒さや恐怖を感じたときに使われる言葉ですが、このときゲストは、大きく心を動かされるという意味で使っていました。この使い方は間違っているのでしょうか?
 

今回は「鳥肌が立つ」の正しい意味を現役フリーアナウンサーの笠井美穂が解説していきます。

<目次>
「鳥肌が立つ」の意味は? 
寒さや恐怖で「鳥肌が立つ」の言い換えは? 
感動すると「鳥肌が立つ」の言い換えは?  
「鳥肌が立つ」の表現は時代とともに変化している
 

「鳥肌が立つ」の意味は? 

「鳥肌」というのは、寒さや恐怖などの強い刺激を受けたときに、肌の表面がブツブツとあわ立った状態を指します。
 

立毛筋という、毛根についた筋肉の反射的な働きで起こる現象ですが、何かの刺激によって「鳥肌」が引き起こされることを、慣用的に「鳥肌が立つ」と言います。
 

国語辞典では、「鳥肌が立つ」の意味について次のように説明されています。

鳥肌が立つ
寒さや恐怖・興奮などの強い刺激によって、鳥肌が生ずる。
総毛立つ。肌に粟を生ずる。
▽近年、感動した場合にも用いる。

『広辞苑 第七版』(岩波書店)

 
本来は「鳥肌が立つ」と言う場合、引き金となる刺激は寒さや恐怖などでしたが、ここでも説明されているように、近年、感動した場合にも同様に「鳥肌が立つ」という表現が使われるようになってきました。冒頭でご紹介したラジオのコメントも、この用法で使われていたもので、本来の意味とは異なるものの、現在では間違いとまでは言えなそうです。
 

寒さや恐怖で「鳥肌が立つ」の言い換えは? 

前述した通り、「鳥肌が立つ」の本来の意味は、寒さや恐怖によって引き起こされる反応です。
 

「鳥肌が立つ」という言葉を言い換える表現としては、「肌があわ立つ」「総毛立つ」などがあります。
いずれも、辞書に記載されている説明では、寒さや恐ろしさによって引き起こされる反応とされています。
 

また、近畿地方や中部地方の一部の地域などの方言で、「鳥肌」と同じような状態を表す「寒疣(さむいぼ・さぶいぼ など)」という言葉がありますが、ここで「寒」の表現が用いられていることからも、本来は寒さなどによる反応として「鳥肌」が認識されていたと考えられます。

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感動すると「鳥肌が立つ」の言い換えは?  

本来は、寒さや恐怖によって引き起こされる反応を「鳥肌が立つ」と表現するということはお分かりいただけたかと思います。
 

とはいえ、日常生活の中で、素晴らしい音楽を聴いたときや、スポーツの試合で感動的なゲームを見たときなど、感動で「鳥肌」が立つ経験をしたことがあるという人もいるのではないでしょうか。
 

また、このざわっと肌があわ立つ独特の感覚を他に言い表す言葉を探すのも難しいことから、「感動で鳥肌が立つ」という表現が広く使われるようになってきたのではないかと思います。

一般的に、感動した場合の言い換えは「激しく胸を打たれる」や「言葉を失うほどの感動」といった表現が主流ではないでしょうか。

平成13年度(2001年)と平成27年度(2015年)に文化庁が行った「国語に関する世論調査」では、「すばらしさに鳥肌が立った」「恐ろしさに鳥肌が立った」どちらの表現を使うか調査されました。

その結果を見ると、「すばらしさに~」を使う人は、平成13年度には22.8%だったのが、27年度には34.6%に増えた一方、「恐ろしさに~」を使う人は、平成13年度の46.8%から27年度には29.1%に減少し、近年では「恐ろしさに鳥肌が立つ」という用法よりも、「すばらしさに鳥肌が立つ」という用法を使う人の方が多くなっていることが分かります。

また、どちらの用法も使うという人も、平成13年度の17.8%から、27年度には27.4%に増えていて、今「鳥肌が立つ」をどのような意味で使うか、過渡期に入っているようです。

「鳥肌が立つ」の表現は時代とともに変化している

かつては寒さや恐怖に対する表現として使われてきた「鳥肌が立つ」という言葉、現代では大きな感動を表す言葉としての用法も浸透しつつあるようです。
 

文明が発達していく中で、温度調節など日常生活の基本的な機能が整ってきたり、原因不明の恐怖を感じる経験が減っていく一方で、多くの刺激的な娯楽を経験できるようになってきたことも、「鳥肌が立つ」場面の変化に影響しているのではないかと、個人的には思います。
 

「感動で鳥肌が立つ」という表現は、本来の用法にはないものですが、現代社会では受け入れられつつあるのではないでしょうか。

■執筆者プロフィール

笠井 美穂(かさい みほ)
福岡県出身。九州大学文学部を卒業後、KYT鹿児島讀賣テレビに入社。退社後は、報道番組を中心にフリーアナウンサーとして活動。これまでの出演は、NHK北九州放送局『ニュースブリッジ北九州』、NHK BS1『BSニュース』、NHK Eテレ『手話ニュース』、NHK ラジオ第1『NHKきょうのニュース』『ラジオニュース』など。

 

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