仕事の取引先や目上の人に対して何かを尋ねたい時、「教えてください」という言葉をより丁寧に表現するにはなんと言うのがよいのでしょう。
よく聞く表現に「ご教授ください」や「ご教示ください」があります。使われている漢字も発音もよく似た言葉ですが、この2つは意味が異なります。
今回は「ご教授」「ご教示」それぞれの意味と使い方を現役フリーアナウンサーの笠井美穂が解説していきます。
・「ご教授」の意味
・「ご教示」の意味
・「ご教授ください」と「ご教示ください」の意味の違い・使い分け方は?
・「ご教授」の使い方・例文
・「ご教示」の使い方・例文
・「ご教示」「ご教授」を使うときの注意点
・「ご教示」「ご教授」の類語・言い換え表現
・「ご教授ください」と「ご教示ください」の英語表現
・「ご教示」と「ご教授」の使い方で迷ったときは意味を考える
「ご教授」の意味
「ご教授」とは、「教授」に尊敬の意味の接頭語「ご」がついた言葉で、「教授」の意味は、学問や技芸などを、継続的、組織的に教え授けることです。(「日本国語大辞典 第二版」小学館)「教授」に含まれる「授(さずける)」という言葉には、師が弟子に教え伝える、伝授するという意味があります。専門的な知見や技能を、ある程度継続して教える場合に「教授」という言葉が使われます。
「ご教示」の意味
「ご教示」とは、「教示」に尊敬の意味の接頭語「ご」がついた言葉で、「教示」の意味は、知識や方法を教え示すこと。(「大辞泉 第二版」小学館)「教示」に含まれる「示(しめす)」という言葉には、相手に対して何か事実を明らかにする、または、気持ちや意向を表すという意味があります。「教示」は一般的な情報や意向などを示す場合に使われます。
「ご教授ください」と「ご教示ください」の意味の違い・使い分け方は?
「ご教示ください」と「ご教授ください」は、どちらも「教える」という意味は共通していますが、内容によって使い分けが必要です。「ご教示ください」は、スケジュールの確認やアドバイスを求めるときなどに適しており、ビジネスシーンで主に使う場面が多いのはこちらにです。対して、「ご教授ください」は、学術的な知識や専門的な知見の教えを請うときに使うのに適しており、比較的アカデミックなシーンで使う場面が多くなります。
「ご教授」の例文
「教授」は、何かに取り組んだり学んだりする際、その分野でより技量が優れた人や学識のある人に教えてもらう場合などに用います。「教示」に比べると、教える人の地位が高かったり、教えてもらうことの重要度が高かったりする場合もあるため、より丁寧な敬語表現を使うこともあるでしょう。
【例文】
「先生の芸術論をご教授いただけますと幸いです」
「この度受賞された研究分野について、ご教授願えますか」
「長年培われた貴社のノウハウをご教授賜りたく存じます」
「ご教示」の例文
先述した通り、「教示」は、ビジネスシーンなどで用いることが多いかもしれません。例えば、取引先とのやりとりで、意向を聞きたい場合やスケジュールの確認をしたい場合などは「教示」が適切です。【例文】
「ご都合の良い日時をご教示ください」
「必要な資料がございましたら、ご教示いただけると幸いです」
「先日ご教示いただいた方法で進めさせていただきます」
「ご教示」「ご教授」を使うときの注意点
「ご教示」「ご教授」の正しい敬語表現は?
「ご教示」や「ご教授」を敬語として使う場合は、「~いただく」や「~くださる」といった表現を使います。「ご(教示・教授)くださる」は「教えてくれる」の尊敬表現、「ご(教示・教授)いただく」は「教えてもらう」の謙譲表現で、いずれも相手への敬意を表すことができます。
一方で、「ご(教示・教授)してください」「ご(教示・教授)していただく」というような表現を聞くことがありますが、この表現は尊敬語としては間違いです。
「ご~する」というのは「~」という動作を行う人がへりくだる謙譲の表現ですので、教示・教授する側の人の立場を低くしてしまい、失礼になります。よく似た表現ですが、注意が必要です。
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「ご教示」「ご教授」は書き言葉。口頭での言い換えは?
「ご教示ください」や「ご教授ください」はやや堅めの表現で、書き言葉として適しています。話し言葉・口頭で同じような意味を使いたいときは「教えてください」「教えていただけますか」などを使うのが無難です。
「ご享受」と間違えない
「教授」の同音異義語として「享受」という言葉がありますが、まったく違う意味なので、メールなどで「ご教授」を使う際は変換ミスに気をつけましょう。「享受」の意味は「精神的、あるいは物質的な面において、あるものを受け、自分のものとすること」「受け取って自分のものとして楽しむこと」です。「恩恵を享受する」「恵みを享受する」「メリットを享受する」といったような使い方をします。
「教示」や「教授」のように、「教える」という意味合いはないため、間違って使用しないように注意しましょう。
「ご教示」「ご教授」の類語・言い換え表現
「教示」や「教授」と同じように「教える」という意味を持つ言葉も確認しておきましょう。指導
「指導」は、ある目的や方向に向かって導くことを意味します(「類語大辞典」講談社)。「学習指導」や「行政指導」などに使われるように、目指すべきかたちが決まっていて、そこに向かう道筋を示す場合は「指導」を使います。指南
「指南」は、武道・芸道などで指導すること(「類語大辞典」講談社)。茶道や剣道などの分野で指導することは「指南」となります。以上の2つの言葉には「導く」というニュアンスが含まれます。場面によっては、「教示」や「教授」と言い換えて使ってみましょう。
「ご教授ください」と「ご教示ください」の英語表現
英語で表現する場合も、日本語と同じように「ご教授ください」と「ご教示ください」では微妙にニュアンスが異なります。以下の例文を見ながら、確認しておきましょう。ご教授くださいの英語表現
「Please give me a lecture.」先述した通り「ご教授」は「学術的な知識や専門的な知見の教えを請う」という意味合いを持つため、目上の人からより詳しい技術など学びたいときには上記の表現を使うのが一般的です。ただし、海外では「学問や技能を教える」という意味を持つ「lecture」をビジネスシーンで使うことはほぼありません。外国人に何か教えてほしいことがある場合は、次に解説する「ご教示」を使うと覚えておきましょう。
ご教示くださいの英語表現
「Please instruct me on what I should do. (何をすればいいか、ご教示ください。)」「Please inform me of your address.(住所を教えてください。)」
「Let me know.(私に知らせてください。)」
「ご教示ください」は、言い換えれば「教えてください」という意味合いになるため、「Please tell me 」や「Please teach me」でもいいと考える人もいるでしょう。確かに、相手が家族や友人であれば問題ありません。しかし、ビジネスシーンの場合はより丁寧な表現である「inform」や「instruct」が適しています。また「tell me」には、相手の返事を積極的に求めるニュアンスがあり、「早く教えて」「今すぐ教えて」というように相手を急かしているような印象を持たれることがあるため、くれぐれも注意しましょう。
「ご教示」と「ご教授」の使い方で迷ったときは意味を考える
ここまで示してきたように「教示」と「教授」は意味の異なる言葉なので、使い分けが必要です。また、「指導」や「指南」など似た意味を持つ言葉も多いため、どの言葉を選ぶべきか判断に迷うこともあるかもしれません。
それぞれの言葉の意味や使い方をしっかり理解し、正確に使い分けられるようになりたいものですが、もし迷った場合は、「お教えください」や「教えていただけますか」など、「教える」という動詞をそのまま使った敬語表現にするのも一つの手です。