
人から褒められたときなどに、謙遜して「とんでもない」と言うことがあります。この「とんでもない」、敬語ではなんと言えばよいのでしょう。
「とんでもありません」「とんでもございません」といった言い方を耳にしますが、この表現は正しい敬語と言えるのでしょうか。
今回は、「とんでもない」の正しい敬語表現についてフリーアナウンサーの笠井美穂が解説していきます。
<目次>
・「とんでもない」の意味とは
・「とんでもない」の敬語表現
・「とんでもございません」は誤用なの?
・「とんでもございません」の正しい使い方と例文
・ビジネスシーンで「とんでもございません」の使用は慎重に
・「とんでもない」の正しい表現を覚えて使いこなそう
「とんでもない」の意味とは
「とんでもない」は、驚きや非常に意外なことを表現する言葉です。また、時には否定的な意味合いを持ち、ある行為や状況が非常にひどい、許せないという意味でも使われます。「とんでもない」の敬語表現
「とんでもない」という言葉は、「とんでも/ある・ない」のように途中で切ることはなく、「とんでもない」で1つのまとまりです。
「とんでもありません」や「とんでもございません」という言い方は、「とんでもない」を「とんでも/ない」と途中で切り、「ない」の部分を変化させたものですが、ひとまとまりの言葉を一部だけ変化させるのは適切ではないとされています。
「とんでもない」を敬語にする場合は、言葉を部分的に変えるのではなく、「とんでもないことです」とするのが本来の表現です。
「とんでもございません」は誤用なの?
ただ、「とんでもございません」は、現在では広く使われるようになっているため、全くの誤りとは言えなくなってきています。
2007年に文化審議会が答申した「敬語の指針」では、
「とんでもございません」(とんでもありません)は,相手からの褒めや賞賛などを軽く打ち消すときの表現であり,現在では,こうした状況で使うことは問題がないと考えられる。
とあり、はっきり「問題ない」としています。
さらに、この指針では、「『とんでもございません』は,『とんでもないことでございます』とは表そうとする意味が若干異なる」として、褒められたときに謙遜したい場合、「『とんでもないことでございます』と言ったのでは,『あなたの褒めたことはとんでもないことだ』という意味にも受け取られるおそれがあるので,注意する必要がある」とも指摘しています。
国語辞典を引くと、「とんでもない」の意味は次のように記載されています。
とんでもない
1.とほうもない。思いもかけない。意外である。もってのほかである。
2.(相手のことばに対する強い否定を表す)
まったくそんなことはない。冗談ではない。
(『精選版 日本国語大辞典』小学館)
②の意味を見ると、「とんでもない」は、相手の言葉を強く否定し、「冗談ではない」といった意味を持つとされています。
賞賛に対して謙遜のつもりで「とんでもないことです」と言ったとしても、受け取る相手によっては、強く否定されたと感じ、失礼だと思われる可能性があるということでしょう。
ただ、実際の会話では、表情や語調などもありますので、誤解を招くことはあまりないのではないかと思います。手紙やメールなど、文字のみでのやりとりの場合には注意が必要かもしれません。
また、「敬語の指針」で問題ないとされたのは、賞賛に対する謙遜の場合です。強く否定したり、非難したりする意味で使う場合は、「とんでもないです」「とんでもないことです」といった表現がよいでしょう。
「とんでもございません」の正しい使い方と例文
・謙遜の場合謙遜の意味で「とんでもない」と使う場合、相手のお世辞やほめ言葉に対して謙遜の気持ちを表現することがあります。これは、相手の言葉を過大評価していると感じる場合に使われます。
【例文】
1. 「あなたはとても優れた才能を持っていますね!」
「いいえ、とんでもないです。まだまだ勉強中です。」
2. 「この料理はとても美味しいですね!」
「ありがとうございますが、とんでもないです。まだまだ改善の余地があります。」
このように、「とんでもない」という表現を使うことで、自分を謙遜し、相手に対して謙虚な態度を示すことができます。
・否定の場合
「とんでもない」は、驚きや非難の意味で使われる表現です。相手の言動や状況に対して、非常に驚きや非難を示す場合に使用されます。
【例文】
・彼がその大金を無駄遣いしたと聞いて、とんでもないことだと思った。
・彼女が私の秘密を他の人に話したと知って、とんでもないことをしたと思った。
・あの映画はとんでもなくつまらなかった。お金を払って見る価値はない。
これらの表現は相手を非難する場合に使われるため、相手との関係や状況によっては適切でない場合もあります。
ビジネスシーンで「とんでもございません」の使用は慎重に
現在では一般的になっている「とんでもありません」「とんでもございません」という表現ですが、慎重に使った方がよいという指摘もあります。
NHK放送文化研究所のWebページ(2010年10月1日公開)では、「とんでもございません」は、慣用的な表現として一般化している一方、強い抵抗感や違和感を持つ人もいるとして、放送では本来の使い方や伝統的な語形などをよく認識した上で安易な使用は避けた方がよいとしています。
また、文化庁は「国語に関する世論調査」で、「とんでもございません」という表現が気になるかどうかを調べています。

どの年度でも半数以上の人が「気にならない」としていて、「とんでもございません」という表現は一般に浸透していることが分かります。
一方で、その割合は徐々に減っていて、反対に、「気になる」または「どちらとも言えない」と答えた人が増加傾向にあります。
違和感を覚える、または全く気にならないわけではないという人が徐々に増えてきているということにも留意して、慎重に使う方がよさそうです。
「とんでもない」の正しい表現を覚えて使いこなそう
「とんでもない」を敬語にする場合、本来の正しい表現は「とんでもないです」「とんでもないことです」などの言い方です。
ただ、現在では褒められて謙遜する場合などに「とんでもございません」ということは一般的になっていて、問題はないとされています。とはいえ、本来の表現とは違うため相手によっては言葉遣いに違和感を持つ可能性もあります。
難しいところですが、相手が普段どんな言葉遣いをしているかなどにも留意しつつ、適切な表現を使えるようになりたいものです。
■執筆者プロフィール

笠井 美穂(かさい みほ)
福岡県出身。九州大学文学部を卒業後、KYT鹿児島讀賣テレビに入社。退社後は、報道番組を中心にフリーアナウンサーとして活動。これまでの出演は、NHK北九州放送局『ニュースブリッジ北九州』、NHK BS1『BSニュース』、NHK Eテレ『手話ニュース』、NHK ラジオ第1『NHKきょうのニュース』『ラジオニュース』など。