
「あの子は世間ずれしているね」というとき、どんな人を思い浮かべますか?
世の中の酸いも甘いもかみ分けてずる賢くなっている人、あるいは世間の常識から外れた人、どちらが正しいのでしょうか。
今回は、意味を間違えやすい言葉のうち「世間ずれ」について、正しい意味をフリーアナウンサーの笠井美穂が解説していきます。
・「世間ずれ」の意味とは?
・「世間ずれ」の認識に関するアンケート
・「ずれる」と「擦れる」の違いについて
・「世間ずれ」の使い方と例文
・その他の「~擦れ」がつく言葉
・「世間ずれ」の誤用に注意!
「世間ずれ」の意味とは?
「世間ずれ」とは、社会や世間の常識やルールに疎い、またはそれに馴染めないことを指します。具体的には、社会的なマナーや礼儀作法、社会的なルールや慣習に対して無頓着であったり、それらを理解できずに行動したりすることを指します。
「世間ずれ」の認識に関するアンケート
本来の正しい意味は、世の中でどのくらい認知されているのでしょうか。
平成16年度に文化庁が行った『国語に関する世論調査』に、「世間ずれ」をどのような意味で使っているか尋ねたアンケートがあります。結果は次の通りです。
(ア) 世の中の考えから外れている・・・ 32.4%
(イ) 世間を渡ってきてずる賢くなっている・・・ 51.4%
(ウ) (ア)と(イ)の両方の意味で使う・・・ 3.3%
(エ) (ア)や(イ)のどちらの意味でも使わない・・・ 7.8%
(オ) 分からない・・・ 5.1%
(平成16年度『国語に関する世論調査』文化庁)
これを見ると、半数以上の人が「世間を渡ってきてずる賢くなっている」という本来の正しい意味で使っていることが分かります。
ただ、年代別の解答を見ると、16~19歳の60.2%、20代の53.0%、30代の44.5%が「世の中の考えから外れている」という誤った意味で使っているという結果も出ています。
若い世代ほど、間違った意味の方が浸透していることが読み取れます。
「ずれる」と「擦れる」の違いについて
なぜ、「世間ずれ」の意味を「世間知らず」や「非常識」とする誤った認識が広まったのでしょう。
これは、おそらく「世間ずれ」という言葉を「世間」から「ずれている」と認識したためだと考えられます。「世間」から「ずれ」る、つまり一般的な常識から外れている、世間を知らないといった解釈がされたのでしょう。
しかし、「世間ずれ」の「ずれ」は漢字で書くと「擦れ」です。「擦れる」という言葉には「多くの人に接して世慣れる。世間になじむ。また、世間でもまれて純粋さを失ったり、悪賢くなったりする。世間ずれがする。」(『精選版 日本国語大辞典』)という意味があり、「世間ずれ」とほぼ同じ意味を表します。
漢字に変換してみると「世間ずれ」の意味は明らかですね。
「世間ずれ」の使い方と例文
先ほども述べた通り、「世間ずれ」とは、世間の常識や社会のルールに疎いことを指す表現です。社会的なルールや習慣に慣れていないことを表す場合、以下のような例文が考えられます。
【例文】
・彼は田舎育ちで、都会の習慣にはまったく世間ずれしている。
・新入社員の彼女はまだ若く、ビジネスのマナーや社会的なルールについては少し世間ずれしているようだ。
・彼は長年引きこもっていたため、人とのコミュニケーションに苦労し、世間ずれしている。
その他の「~擦れ」がつく言葉
「世間擦れ」のほかにも「~擦れ」という形で、「擦れる」の意味が使われる言葉はあります。
【あばずれ(阿婆擦れ)】
(1)悪く人ずれがして厚かましいこと。
また、そのような人や、そのようなさま。
現在では女性にいうが、古くは男女ともにいった。
すれっからし。莫連。
(2)乱暴な言動。また、ふざけた行為。
【ともずれ(友擦れ)】
友達との交際によって世事になれてくること。
特に、純粋さを失い悪賢くなること。
【ひとずれ(人擦れ)】
多くの人の中でいろいろな経験をつんで、世なれしていること。
【わるずれ(悪擦れ)】
世間でもまれて性質が悪がしこくなること。また、その人。
(『精選版 日本国語大辞典』小学館より)
厳しい世間で悪賢くなるという意味では「すれからし(すれっからし)」という言葉もありますが、こうした言葉は、現在では耳にする機会はまれだと思います。
「擦れる」という言葉自体が、特に若い世代ではあまり使われなくなったことで、「世間ずれ」の意味も誤ったものが広まりつつあるのかもしれません。
「世間ずれ」の誤用に注意!
「世間ずれ」の正しい意味は、「世の中でもまれて悪賢くなること」です。言葉を分解すると「世間からズレている」のではなく、「世間でもまれて擦れている」となります。
誤った意味で使われる場面にも多く遭遇するかもしれませんが、ぜひこの機会に正しい意味を確認してみてください。
■執筆者プロフィール

笠井 美穂(かさい みほ)
福岡県出身。九州大学文学部を卒業後、KYT鹿児島讀賣テレビに入社。退社後は、報道番組を中心にフリーアナウンサーとして活動。これまでの出演は、NHK北九州放送局『ニュースブリッジ北九州』、NHK BS1『BSニュース』、NHK Eテレ『手話ニュース』、NHK ラジオ第1『NHKきょうのニュース』『ラジオニュース』など。