
「法令が施行される」などという場合の「施行」という言葉、皆さんは何と読んでいますか? 「しこう」と読む方もいれば、政治家のスピーチなどで「せこう」と読むのを聞いたことがある人もいると思います。
今回は「施行」について、「しこう」と「せこう」どちらの読み方が正しいのかをフリーアナウンサーの笠井美穂が解説していきます。
<目次>・そもそも「施行」の意味とは
・「施行」の正しい読み方
・「施行」と「施工」の違い
・施行(しこう)の読み方をマスターしよう
そもそも「施行」の意味とは
国語辞典で「施行」を引くと、「しこう」「せこう」を含め、合わせて4種類の読み方が出てきます。『精選版 日本国語大辞典』(小学館)で確認してみましょう。・しぎょう
①実行すること。命令を実施すること。命令を伝達すること。命令を伝達して実行させること。せぎょう。しこう。
②「しぎょうじょう(施行状)」の略。
・しこう
①ほどこし行なうこと。政策などを実行すること。せぎょう。しぎょう。
②公布された法令の効力を現実に発生させること。
③⇒せぎょう(施行)
・せぎょう
①仏語。布施の行。施し行なうこと。僧侶や乞食などに物をほどこし与えること。
②=しぎょう(施行)
③⇒しこう(施行)
・せこう
①⇒せぎょう(施行)
②⇒しぎょう(施行)
③⇒しこう(施行)
「せこう」を除いてそれぞれの項目に語釈が記されていますが、互いに他の読み方の項を参照するように示されている部分もあり、読み方によって完全に意味が分かれているというわけではなさそうです。
また、今回は『精選版 日本国語大辞典』を参照しましたが、辞書によってどの読み方に語釈を付け、どの読み方を参照扱いにするかには違いがあります。
一概に、この読み方ならこの意味、と言い切るのは難しいかもしれません。
「施行」の正しい読み方
・「施行」の読み方は4種類ある上記のように、「施行」には、「しぎょう」「しこう」「せぎょう」「せこう」と4種類の読み方があり、どれも正しい読み方となります。また、読み方によって意味も変わってきます。
・一般的な読み方は「しこう」
しかし、『精選版 日本国語大辞典』の「せぎょう(施行)」の項には次のような補注があります。
現代では「しこう」が普通であるが、法律などが制定されたのち、その効力を現実に発生させる意の法律用語では「せこう」が慣用される。
また、多くの人にとって分かりやすい表現が求められる放送で使う言葉を解説した『NHKことばのハンドブック 第2版』(NHK出版)には次のように記載されています。
施行 〇シコー ×セコー
さらに、毎日新聞 校閲センターが運営するWebサイト『毎日ことば』で2021年11月9日に公開された記事では、「施行」の読み方を「施工」と比較してどう読むかというアンケートが紹介されています。
記事によると、「施行=しこう」「施工=せこう」と読む人が68.5%で、「施行」「施工」どちらも「しこう」と読むと答えた5.8%と合わせると、7割以上の人が「施行」を「しこう」と読んだという結果が示されています。
アンケートの対象や母数は分かりませんが、一定の人が「施行」を「しこう」と読んでいることが分かります。
こうしたことから、「施行」の読み方は、現代においては「しこう」が一般的だといえるでしょう。
「施行」と「施工」の違い
では、「施行」と「施工」の違いとは何でしょうか。
まず、「施行」を一般的な読み方の「しこう」と読む場合には、ほどこし行なうこと、政策などを実行することが主な意味となるでしょう。
一方で、「施工」の意味は、計画された工事を実施すること。
「施行」と「施工」の違いとしては、「施行」が単に、何か計画を実行することに使う言葉であるのに対し、「施工」は工事に限定された言葉であるというところにあるでしょう。
施行(しこう)の読み方をマスターしよう
「施行」には4種類の読み方がありますが、現代では「しこう」と読むのが一般的でしょう。
また、「施」を使う似た言葉には「施工」や「施策」がありますが、これらはそれぞれ「施工(せこう)」、「施策(しさく)」と読むのが一般的です。「施工」には「しこう」の読み方もありますが「施行」と読み分けるために「せこう」が一般的になったと考えられます。また、「施策」は「しさく」が正しい読み方です。
「施行」に関しては「せこう」など「しこう」以外の読み方を用いても間違いではありませんが、より一般に浸透している読み方として、「施行=しこう」をこの機会に覚えていただければ幸いです。
■執筆者プロフィール

笠井 美穂(かさい みほ)
福岡県出身。九州大学文学部を卒業後、KYT鹿児島讀賣テレビに入社。退社後は、報道番組を中心にフリーアナウンサーとして活動。これまでの出演は、NHK北九州放送局『ニュースブリッジ北九州』、NHK BS1『BSニュース』、NHK Eテレ『手話ニュース』、NHK ラジオ第1『NHKきょうのニュース』『ラジオニュース』など。