商品を覚えても、客の好みまでは分からない
コンビニ本部が開催する外国人スタッフ研修では、日本語や商品について次のような戸惑いがよく語られるといいます。例えば「はし」という音だけでも、箸、橋、端がある。数え方も、一本、一膳、一個と変わる。日常会話ができても、売場で使われる言葉にすぐ対応できるとは限りません。
コンビニには約3000品目の商品が並び、毎週、100種類近くの新商品が入ってくるといいます。日本人でもすべてを把握するのは難しいうえ、外国人スタッフには、食文化の違いも重なります。
例えば、おでん。客が指をさしてくれれば分かっても、「がんも」「つくね」「さつま揚げ」と言われると、どれを取ればよいか分からない。おでんに馴染みのない環境で育った人は、名前と見た目を結びつけるところから覚えなければなりません。
そして、商品のことが分かってきても、次の疑問が生まれます。
「牛丼は箸ですか。スプーンですか。パスタは箸ですか。フォークですか」
これは、日本人でも答えが分かれる問いです。牛丼をスプーンで食べたい人も、パスタを箸で食べたい人もいます。商品と食器の組み合わせを暗記するだけでは、目の前の客が望む物を選べない場合があるのです。
そこで必要になるのが、「フォークでよろしいですか」「お箸にしますか、スプーンにしますか」という確認です。相手の希望が分からなくても、尋ねることはできます。
ただ、「分からなければ聞けばいい」と教えるだけでは十分ではありません。日本語に慣れていない人が、忙しいレジでとっさに丁寧な言葉を組み立てるのは難しい。そのまま使える短い言い方を教え、一緒に練習する必要があります。
客の中には、希望と違う物を渡された時、食べにくさに加えて「雑に扱われた」と感じる人もいるでしょう。スタッフに悪気がなくても、気遣いが足りないように映る。だからこそ、何を付けるかという手順と一緒に、確認のひと言が持つ意味も伝えたいのです。
「どうして先に謝るのですか」という疑問
謝ることにも、同じような難しさがあります。客から指摘された時、謝罪より先に事情を説明する。本人は正確に伝えているつもりでも、客には言い訳に聞こえ、かえって怒りを強めてしまう場合があります。本書に登場するコンビニオーナーの坂本さんは、まず相手が嫌な思いをしたことを受け止め、そのあとで事情を説明するよう教えていました。ところが、外国人スタッフからは疑問が返ってきます。
「自分が悪いと決まっていないのに、どうして謝るのですか?」
日本の接客に慣れた人には、先に謝るのが自然でも、その理由まで共有されているとは限りません。坂本さんは外国人スタッフに次のように説明します。
「責任を全部認めるために謝るんじゃない。まず、相手が嫌な思いをしたことに対して謝るんだ」
謝罪のあとで、事情を説明すればよい。 日本では、「申し訳ありません」が法的責任の全面的な承認として使われているとは限らない。相手の感情を受け止め、会話を始めるための言葉でもあるのです。
例えば、客を待たせた時には、まず「お待たせして申し訳ありません」と伝える。そのあとで、時間がかかった事情を説明する。何について謝っているのかを具体的にすれば、相手の不便を受け止めるための言葉だと理解しやすくなります。
「とにかく謝れ」では、意味が分からないまま頭を下げることになりかねません。謝罪の言葉を覚えることと、なぜその言葉を使うのかを理解することには、違いがあります。



