コンビニの外国人スタッフが戸惑うのは、日本語の難しさだけではありません。客によって違う好みや、言わなくても分かってほしいという期待に、どう応えるか。
コンビニ本部に30年間勤めた村尾信一が、新著『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。コンビニで働く外国人たちと店主一家の23年』(飛鳥新社)で描いた事例から、レジで起こる行き違いの背景を考えます。
※本記事で紹介している商品の購入やサービスの利用により、売上の一部がオールアバウトに還元されることがあります。
「日本人は、みんなお箸を使うと思っていました」
「店長! パスタにお箸を付けたら、お客様がキレました」東京・港区のコンビニで、ネパール人スタッフのラメス君が、慌てた様子でバックルームへ入ってきました。
「どういうことだ?」
店長に尋ねられ、ラメス君は、たったいまレジで起きたことを説明しました。
客が買ったのは、お弁当売場にならんだパスタでした。会計を済ませ、箸を一膳、袋へ入れる。ところが、袋の中を見た客は、箸を取り出して言いました。
「なんで箸なんだよ!」
ラメス君は、何を怒られているのか分かりません。客はさらに語気を強めます。
「普通はフォークだろ!」
「申し訳ありません」
慌てて箸を受け取り、代わりにフォークを差し出すと、客はそれをつかみ、不機嫌そうな顔のまま店を出ていきました。
「それで、どうして箸を入れたんだ?」
店長が尋ねると、ラメス君はこう答えました。
「日本人は、みんなお箸を使うと思っていました」
私が実話をもとにした新著で描いた一場面です。言われてみれば、パスタを箸で食べる日本人もいます。客から「箸を付けてほしい」と頼まれることもある。それなのに、先ほどの客は怒った。ラメス君には、その違いが分かりませんでした。
日本語を学びたいから、コンビニで働く
いま、外国人スタッフは、日本のコンビニの日常を支える存在になっています。共同通信は2024年5月、大手3社で働く外国人アルバイトが8万人を超え、アルバイト全体の約1割を占めると報じました。日本のコンビニすべてではなく、セブン‐イレブン、ファミリーマート、ローソンの3社だけの集計です。
ローソンが公表した2024年7月末時点の外国人従業員の国別順位は、ネパール、ベトナム、中国、バングラデシュ、スリランカ、ミャンマーの順でした。もちろん、採用環境は地域や店で異なります。近くに日本語学校があるかどうかでも変わり、外国人がスタッフの8割を占める店もあります。
その背景には、日本人の働き手が集まりにくくなった事情があります。一方、留学生には学費や家賃、生活費が必要です。学校や自宅の近くで探せて、授業のない時間に働けるコンビニは、留学生たちの間で人気のアルバイトになっています。
その魅力は、時間の都合だけではありません。日本語を使い、日本社会の中で経験を積めることも、働く理由になっています。
コンビニでは、接客そのものが仕事です。相手の話を聞き、意味を理解し、その場で答える。教室で覚えた日本語を、実際のやり取りの中で使う機会が、勤務のたびに生まれます。
小さな売場に食事や日用品がそろい、荷物を送り、支払いまでできる。日本人には見慣れた店も、海外から来た人には驚きの多い場所です。おにぎりや弁当、季節の商品、贈り物の習慣まで、日本の暮らしにも触れられます。
ところが、そこで学ぶのは商品や言葉だけではありません。ラメス君が直面したような、客の「当たり前」を知る必要もあるのです。



