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世間が変わったのではない。自分が老いたということを知るべし
最近の飲料メーカーはけしからん、と思ったことがある。ペットボトルのキャップが、急にきつくなったからだ。投書してやろうかと思ったほど、急激に開けられなくなった。
しかしある日気づいた。自分の握力が弱ったというあたり前のことに。
「最近のタクシーの運転手さんって、すごく親切になったね」
しみじみ言ったことがある。
若い頃、成城に住んでいたことがあったが、行き先を告げると、運転手さんがムッとした表情に。
あそこは信号が多いうえに帰りの客はなく、運転手さんには嫌われるエリアだとか、
「高速で行ってもらうよ。わかったな」
とスゴまれたことも。
そこへいくとこの頃は、ほとんどの運転手さんが穏やかで感じがいい。近いところでもイヤな顔をしないし、言葉も丁寧だ。
社員教育を徹底したのか、ネットが怖いのか、などといろいろ考えるまでもない。こちらが年をとっていたわられているだけなのであった。
あたり前過ぎるほどあたり前のことであるが、
「世間が変わったのではない。自分が年とって変わったのだ」
ということに気づくと、いろんな仕組みもわかってくるのではないだろうか。
自分はいたわられている
↓
いたわる、というのは気を遣つかうこと
↓
ということは、来られては本当は迷惑
↓
と配慮し、いたわられる場所には行かない
とまあ、おのずから答えは出てくる。
この書籍の執筆者:林真理子 プロフィール
1954年、山梨県生まれ。82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーになる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、95年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で吉川英治文学賞、2013年『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞、20年、菊池寛賞、22年、野間出版文化賞を受賞。18年、紫綬褒章を受章。22年、日本大学の理事長となる。



