「BAGEL & BAGEL」の創業者がビジネスの第一線から退いた理由。40代・50代に贈る「人生後半戦」の生き方

「目標を達成したのに、なぜかむなしい」とキャリアに迷う大人たちへ。「BAGEL & BAGEL」を累計130店舗まで育てた創業者が、ビジネスの頂点で直面した葛藤とは。さらなる拡大ではなく、自身の経験を次世代へ手渡す「人生後半戦の生き方」のヒント。

ビジネスで成功を収めた先に生まれた、新たな「問い」

累計130店舗。客観的に見れば、起業家としてこれ以上ない「ゴール」に到達した瞬間でした。しかし、事業が大きくなればなるほど、林さんの心にはあるひずみが生まれ始めます。

「会社が成長するにつれて、経営者である私の役割が変わっていきました。創業期は現場に立ち、商品を生み出し、お客さまと直接つながる手触り感がありました。しかし組織が大きくなると、『管理すべき数字』が増えます。付き合う相手も、現場のスタッフやお客さまから、金融機関や投資家、大企業の経営者へと変わっていきました」

もちろんそれは、事業を存続・拡大させるためには必要なプロセスです。しかし、「数字を追いかけること」自体が目的化したとき、かつてあれほど楽しかったビジネスが、少しずつ自分をすり減らすものへと変質していきました。

「数字を追いかけることが嫌だったわけではありません。ただ、私はもともと現場が好きなんです。お客さまと接したり、新しい価値を生み出したり、人の成長に関わったりすることの方が楽しいと感じていました」

何のために働いているんだっけ?——

その問いを抱えた林さんの脳裏に浮かんだのは、かつて憧れた祖父の「成功のその先」の姿でした。

「祖父はビジネスで成功した後、私財を投じて公民館を建てたり、まだ普及していなかったテレビや電話を地域の人たちが使えるように寄進したりしていました。どれだけ稼いだかではなく、自分の力をどう社会に返すか。その姿を思い出した時、自分も最初から『事業を大きくすること自体』が目的ではなかったと気づいたんです。事業を通じて、社会にどんな価値を残せるか。そのために自分が本当にやりたいのは、社会をよくする『教育』だという原点に立ち返りました」

こうして林さんは、拡大路線のビジネスから身を引き、社会課題をビジネスで解決する人材を育てる「社会起業大学」の活動へと舵(かじ)を切りました。

「社会課題を解決したいという志を持つ人は少なくありません。しかし志だけでは事業は続きません。一方で、お金だけを追いかけても長続きしません」

だからこそ林さんは、社会課題と自分自身の人生が深く結びついた人を育てたいと考えるようになったのです。これは母校神戸大学の恩師 村上敦先生が「日本にはお金儲けができる人は多いが、人を育てられる人が少ない」とおっしゃっていたことにも繋がってます。
社会起業大学 学長 林弘喜さん
社会起業大学 学長 林弘喜さん

「リスクを取って起業する」だけが人生後半戦の正解ではない

社会起業大学を運営する中で、40代、50代になると自分のこれからのキャリアや人生について改めて考える人が増えると感じているそうです。

「僕のように、いくつになっても新しいリスクを取って夢を追いかけたい人は、それを続ければいい。でも、全員が会社を辞めたり、大きなリスクを背負って起業したりする必要はありません」

では、人生後半戦を迎えたビジネスパーソンは、何に幸せを見いだせばいいのでしょうか。林さんが提案するのは、これまでとは真逆の「自分の経験を人にあげる(GIVEする)」という生き方です。

「『もうこれ以上リスクは取りたくない』と思うなら、それでいいんです。その代わり、自分がこれまでの長い社会人生活で培ってきた経験や知識、人とのつながりを、必要としている次の世代にどんどん『手渡して』いけばいい」

こう言うと、「自分には人に誇れるような特別な実績なんてない」と気後れしてしまう人も多いかもしれません。しかし、林さんはそれを否定します。

「会社員でも、公務員でも、主婦でも、『自分には何もない』と思い込んでいる人は本当に多い。でも本当はそんなことはない。これまで積み重ねてきたものが、誰にでもあるはずなんです。そうやって人の役に立つことは、夢を追いかけるのと同じくらい充実した人生につながると思います」

累計130店舗のチェーンを築いた林さんが、最終的に行き着いたのは、さらなる富や名声ではなく「得たものを次の誰かへ手渡していく」という、ごく静かでシンプルな幸せでした。

出世や成功という「上に向かうキャリア」に行き詰まりを感じたとき。それは、あなたの人生が「外へ、人へ、分け与えるキャリア」へとシフトする、最高のサインなのかもしれません。
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お話を聞いたのは:林浩喜さん
社会起業大学 学長。神戸大学経済学部卒業後、住友商事に入社。米国コーネル大学ホテル経営大学院修了。帰国後、日本初のベーグル専門店「BAGEL & BAGEL」を創業し、累計130店舗規模まで成長させる。現在は社会起業大学学長として、社会課題をビジネスで解決する人材の育成に取り組む。
廣田 美絵子
この記事の執筆者: 廣田 美絵子
大手化粧品会社で人事部にて採用・教育・広報を担当。その後教育系のベンチャー企業を経てフリーランスで取材・編集・執筆を行う。キャリアコンサルタントでもあり、人のキャリアや生き方にフォーカスした記事執筆を得意とする ...続きを読む
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