家族みんなで溺愛していた猫を失ったあと、家の中から笑顔が消えてしまった——。
そんな日々が続く中で、もう一度猫と暮らすという選択は、簡単なものではありません。それでも、小さな兄弟猫との出会いは、少しずつ心に灯をともしていきました。
本記事では、『猫は奇跡』(佐竹茉莉子・著/辰巳出版)より一部抜粋し、悲しみと向き合いながら歩き出した一家の再生の物語を紹介します。
愛らしい盛りの愛猫「詩」を失って
迎えて半年の愛らしい盛りの「詩(うた)」を、病魔によりあっけなく失った友香さん一家。深い悲しみに家じゅうが沈み込む。
灯が消えたような半年が過ぎようとする頃、次男が「また猫を飼いたい」と言う。
詩を溺愛していた長男に気持ちを聞くと、ポロポロと涙をこぼした後、小さな声で言った。
「いてくれたら、うれしい」
長男の涙。もう一度、猫と暮らすという決断へ
「また猫が飼いたい……」
次男が友香さんにそう打ち明けたのは、一家で溺愛していた「詩」が空に帰っていって半年が過ぎた頃だった。それは、友香さんが心のどこかで予期していた言葉だった。
愛らしさの塊のような詩が、FIP(※)によって8ヶ月の短い生涯を終えてから、家じゅうが悲しみの湖底に沈んだ。会話がめっきり少なくなり、誰も笑わなくなった。
友香さん自身、どれほどの涙をこぼしたことだろう。外出さえできない時期もあった。ようやく半年たって「詩はもういないんだ」という事実を受け入れられるようになってきていた。
詩をいちばん寵愛(ちょうあい)していた長男は、弟の願いに無反応を通す。数日後、「もう一度猫を飼うとなったら、どう思う?」と、友香さんは長男にそっと聞いてみた。
下を向いたままの長男の目から、ぽとりぽとりと涙がこぼれ落ちる。反抗期真っ只中の彼の抱え続けていた喪失感と悲しみを友香さんは思い知る。
ひとしきり泣いた後、長男は小さな声で言った。「いてくれたら、うれしい」
※FIP:猫伝染性腹膜炎の略。猫コロナウイルスが猫の体内で突然変異を起こすことで発症する。食欲不振、活動性の低下、発熱、体重減少などの症状が起こる。



