猫飼いなら誰もが経験する、あまりに他愛ない“独り言”
話しかけたくなる猫の横顔に
話しかけても横顔のまま
なぜ僕は、猫に話しかけてしまうのだろう。
猫は、人間の言葉をあまり理解していない、と思っている。
思っているにも関わらず、毎日、当たり前のように猫に話しかけている。日中の話し相手が猫しかいない、ということもあるだろう。
試しに、自分が猫にどんな声をかけているか、意識して過ごしてみた。
「水、替えてくるから、ちょっと待ってて」「身体、どこも痛くない?」「かつお節、ぶちまけたの誰?」
「ちゃんとあげるから、ちょっと待ってて!」「何、その格好?」「すごいね!」「もういらないの? あとで欲しいって言ってもないからね?」「寝るの?」「まだ、そんなところに飛び乗れるんだ」「かわいいねぇ」「これ、もう飽きちゃったの?」「誰が吐いた?」……。
書き出してみると、驚くほど他愛もない。まあ、猫に世界情勢について語り出したり、家庭内不和を打ち明け始めたりしたら、そのほうが深刻だ。のんき過ぎるくらいがちょうどいい。
もちろん猫は、みんな面倒くさそうに少し耳や尻尾を動かしたり、上目遣いで僕を見たり、完全に無視したりするだけだ。
それでもいい。いや、むしろそれがありがたくて、また話しかけてしまうのだ。
猫は名前を理解していた!? 飼い主が悟った「完璧すぎる無視」の真相
猫が名を理解しているならば
この無反応さのわけを知りたい
以前、こんな短歌を作ったことがある。
名を呼ぶと尻尾で答える猫がいる
妻を呼んでも答えちゃうけど
つまり「猫は自分の名前なんてわかっていないでしょ」と思っていたのだ。尻尾で反応してくれる猫はまだマシで、名前を呼んでも無反応な猫がほとんどな印象だった。
ある日、猫は自分の名前を聞き分けている、という論文が発表されたことを知り、愕然とした。そんなはずはない。
先日、当連載のイラスト担当の小泉さんにこの話をしたら「ああ、そのニュース、何かで読みました。そりゃそうでしょう、当たり前ですよね」と、僕とはまったく逆の反応で、また愕然とした。
だって考えてみてほしい。これまでに何匹の猫と出会い、何万回猫の名前を呼んだだろう。猫が自分の名前を聞き分けているとすると、名前を呼ぶ僕のことを「ああ、この人に呼ばれているな……」と理解しながら、あえての、あの無視であり、あの完璧な無反応、ということになる。マジか。あんなナチュラルな聞こえないふりができるなんて。僕も見習いたい。
でも名前がわかるからといって、逐一反応されても困るのだ。反応が薄いからこそ、僕はまた用もないのに猫の名を口にすることができるのだから。
仁尾智 プロフィール
1968年生まれ。歌人。1999年に五行歌を作り始める。2004年「枡野浩一のかんたん短歌blog」と出会い、短歌を作り始める。『猫びより』(辰巳出版)で「猫のいる家に帰りたい」、姉妹誌『ネコまる』(同)で「猫の短歌」を連載中。著書に『猫のいる家に帰りたい』、『これから猫を飼う人に伝えたい11のこと』(ともに辰巳出版)など。
公式サイトhttp://kotobako.com
小泉さよ プロフィール
1976年東京都生まれ。おもに猫を描くフリーイラストレーター。東京芸術大学卒業、同大学院修了。著書に『猫ぱんち―二匹の猫との暮らし―』『和の暮らし』『もっと猫と仲良くなろう!』『さよなら、ちょうじろう。』『うちの猫を描こう!』など。最新刊は『ねこの描き方れんしゅう帖』(日東書院本社)。
公式サイトhttp://www.sayokoizumi.com



