早稲アカの躍進を支えている要因の1つが、積極的に校舎を増やしていく戦略です。経営効率の面から見れば、校舎の乱立は一見「非合理」にも映ります。しかし、早稲アカはあえて効率を捨て、生徒の利便性を取ることで支持を拡大しました。
なぜ今、絶対王者だったSAPIXではなく、利便性の早稲アカが選ばれるのか。その背景には、中学受験を取り巻く親の意識の変化、いわば「タワマン文学の終焉(しゅうえん)」があるのではないでしょうか。
【この記事の前編】
実績はSAPIXなのに、なぜ早稲アカ? 中学受験の覇権が入れ替わった“決定的理由”
SAPIXが「ステータス」だった時代
2000年前後、SAPIXの多くの校舎で年明けには満席になることがありました。特に白金高輪校は秋から満席になるため、「低学年から入塾をしないといけない」という説も流れていたほどです。実際には、入塾試験は受験者の8〜9割が合格する水準だったにもかかわらず、「SAPIXに入るために家庭教師をつける」という都市伝説まで飛び交いました。
その後、SNS上では窓際三等兵さんらによる「タワマン文学」が大きな注目を集めました。タワマンに住み、子どもをSAPIXに通わせることを至上のステータスとするライフスタイルと、その裏にある葛藤や虚栄心を描いた物語は、多くの中学受験家庭の共感を呼んだのです。
どうしても手にしたかった“SAPIXママ”の称号
SAPIXが台頭した2010年代、中学受験家庭の多くは専業主婦世帯であり、受験はまさに「妻のプロジェクト」でした。塾選びもまた、母親のステータスの一部を担っていたのです。本来、SAPIXは御三家を狙う「勉強ができる子のための塾」です。しかし、圧倒的な合格実績によるブランド化が進むにつれ、「そこに所属していること」自体に価値を感じる層が増加。結果として、ボリュームゾーンの生徒もSAPIXに集まるようになりました。
例えば、恵泉女学園中学や高輪中学といった伝統ある中堅校を志望する場合、本来なら日能研や栄光ゼミナールの方が指導スタイルとしては合っています。しかし、それでは“SAPIXママ”という称号は得られません。
3年間、“SAPIXママ”として過ごすこと自体に価値を感じる、ある種の「ステータス消費」として塾を選ぶ母親も少なくなかったのです。



