まとめ:素晴らしいところがたくさんあるからこそ、もったいない
ここまでネガティブな点ばかりを述べてきた、問題作と言わざるを得ない『果てしなきスカーレット』ですが、もちろん素晴らしいところもたくさんあります。その1つが、序盤から繰り出されるアクロバティックなアクション。アクション監督である園村健介がスタントコーディネーターとして、映画『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで主演を務めた伊澤彩織がスタントアクターとして参加した意義を感じる仕上がりでした また、序盤のスカーレットが生きている時のアニメは従来通りの2Dで、死者の国では3DCGになるという、表現の「違い」を活かした挑戦は理にかなっていますし、実際に抽象的な世界観を表現するには、これがベストであると思えました。序盤での、死者の国を苦しみながら歩くスカーレットの姿にゾクゾクしましたし、膨大な3DCGの作業が報われる終盤のスペクタクルには心から「見て良かった」と思えたのです。
さらに、予告編では役柄とのミスマッチが語られていた主演の芦田愛菜ですが、実際の本編では「熱演」というにふさわしい演技で激情に身を任せしまう女王を見事に表現していましたし、何よりエンディングテーマの歌唱は本当に素晴らしかったです。実際に、『果てしなきスカーレット』関連のYouTubeの動画のコメントが否定的な声に傾いているのに対し、例外的に芦田愛菜の歌声は絶賛の嵐となっています。 何より、コロナ禍を経て、世界で戦争が起こった今の時代に「復讐」というテーマを描ききったこと、「争いの時代に何ができるのか」という問いの答えを見つけようとした、その意志と意義は称賛したいです。それにしたって結論はやや安易ではないか、と思うところもあるのですが、その不器用さも込みで、どうしても嫌いにはなりきれないのです。
この2025年には『スーパーマン』や『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』など、「この分断と差別が広がり、戦争までもが起こりかねない世界で何ができるか?」という映画が相次いで公開されています。そうした世界的な潮流に、細田監督が日本から「回答」をしたことに、うれしく思うのです。
その上で、細田監督のファンだからこそ、本作が酷評されてしまうことは辛くもあるし、そのために上記の美点の数々が埋もれてしまうのは、とてももったいなく思えます。
関係者や細田監督は、今回の賛否両論はもとより、興行的不振を受け止めた上で、それらを今後の糧(かて)にしてくれる、また素晴らしい作品を作ってくれることを期待しています。



