3:「夢中になること」を肯定してくれる物語
本作の基本的なあらすじは、何かに夢中になってばかりの青年のジュゼッペが、公園で風船売りをしている女の子のペチカに一目ぼれをして、なんとかアプローチをしようと奮闘するという、一途なラブストーリーです。恋には不器用だけど、彼女が本当に大好きで、時には自分の恋の成就なんかよりも、彼女の悩みごとを優先してしまうジュゼッペのことを、誰もが好きになれるのではないでしょうか。
しかし、献身という言葉でも収まらない愛情と、それ以上の不器用さと、それを経てのまさかのクライマックスに、涙する人はきっと多いはずです。
そこに付随して、「とにかく見て!」と言わざるを得ない理由は、劇中の最大の感動ポイントこそがネタバレ厳禁であり、まだ見ていない人に伝えることが難しいことにもあります。見終われば、「トリツカレ男」という奇妙にも思えかもしれないタイトルに必然性があるとわかるはず。シーンの1つ1つを思い出せば、見ている時とはまた違った感慨が生まれるでしょう。
まとめ:傑作アニメ映画が埋もれてしまいかねない状況が歯がゆい! だから見て!
最後になりますが、昨今では国民的な人気を得た漫画およびテレビアニメの劇場版の超特大ヒットが話題になる一方で、『トリツカレ男』のように単体で展開するアニメ映画が、なかなか注目されづらいという、歯がゆい現状があると思います。しかも『トリツカレ男』は、同日に『劇場版 呪術廻戦「渋谷事変 特別編集版」×「死滅回游 先行上映」』や『羅小黒戦記2 ぼくらが望む未来』が上映スタートし、IMAXで先行リバイバル上映された『もののけ姫』が通常スクリーンでも拡大公開、さらには1週前から『映画 すみっコぐらし空の王国とふたりのコ』も公開中と、ファンが多いアニメ映画が渋滞していたため、「選ばれなくなってしまうタイミング」になってしまったと思います。
また、原作となるいしいしんじの小説は、舞台化もされている、コアなファンがいる作品ではあるのですが、刊行されたのが2001年とかなり前で、今では知らない人もかなり多かったことでしょう。そのいしいしんじは「映画化のお話は以前にもいくつかあったんですが、色々な理由で立ち消えになっていました。今回、シンエイ動画プロデューサーの吉田有希さんと初めてお会いしたとき、吉田さんのトリツカレ方がすごくて(笑)。大切にしてくださる方のところに行けそうだなとホッとしましたね」とも語っています。
つまりは、『トリツカレ男』は「長い時間をかけて最高の形で映画化された」のです。そこまでの作品が、実際に見た人から絶賛の嵐にもなっているにも関わらず、「見る前のキャラクターデザインの賛否」や「公開タイミング」で見られなくなってしまうというのは、とてつもなくもったいないと思います。
『トリツカレ男』は、ただでさえ少なかった上映回数が今週末から減らされ、しかも再来週の11月21日には細田守監督作『果てしなきスカーレット』も上映開始となり、さらに見ることそのものが難しくなることも考えられます。
一方で、絶賛に次ぐ絶賛の声がさらに加速すれば、『アイの歌声を聴かせて』などと同様にロングランをする、ずっと愛される傑作として語られ続けることも十分にあり得ると思うのです。
また、『窓ぎわのトットちゃん』や『化け猫あんずちゃん』など傑作ぞろいのシンエイ動画制作のアニメ映画はこれからも注目されるべきですし、12月5日公開の『ペリリュー 楽園のゲルニカ』にも大期待できます。 だからこそ、もう一度言います。『トリツカレ男』をまだ見ていない人は、今すぐに劇場上映を確認し、見に行ける回を予約して、最優先で見に行ってください!
※高橋渉監督の高は、はしごだかが正式表記
この記事の執筆者:
ヒナタカ
映画 ガイド
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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