ヒナタカの雑食系映画論 第196回

「闇バイト、ダメ絶対!」な映画2選。『愚か者の⾝分』と『ヒグマ!!』に共通する抜群のエンタメ性とは

「闇バイト、ダメ絶対!」と改めて心から思える最新映画2作品を紹介しましょう。「3日間の出来事と逃走劇を描く」「鈴木福とヒグマが戦う」という対照的なアプローチでありながら、ハラハラドキドキのエンタメ性が共通していたのです。(画像出典:(C) 2025 映画「愚か者の⾝分」製作委員会)

愚か者
『愚か者の⾝分』10⽉24⽇(⾦) 全国公開 配給:THE SEVEN ショウゲート (C) 2025 映画「愚か者の⾝分」製作委員会
現代で大きな問題となっている「闇バイト」。兵庫県警察のWebサイトでは、以下のように説明されています。

【闇バイトとは】
SNSやインターネット掲示板などで、仕事の内容を明らかにせずに、短時間で著しく高額な報酬の支払いを受け取れるなどと甘い言葉で誘い、特殊詐欺の受け子や出し子、強盗の実行犯など、犯罪組織の使い捨てとなる実行者を「アルバイト」と称して募集しているもの。

闇バイトで1度でも犯罪に加担してしまうと、そのことで脅迫され「抜け出す」ことも困難になったり、最悪の場合は殺人にまで発展してしまうケースもあります。誰もが注意をしなければならないでしょう。

闇バイトの恐ろしさを、フィクションの物語を通じて知る意義もまた大きいはず。ここでは、劇場公開中&公開予定の「闇バイト、ダメ絶対!」と改めて思えること間違いなしの映画を2作品紹介しましょう。

どちらも闇バイトの問題を鋭く描きながらも、ハラハラドキドキのエンターテインメント性が抜群のため、幅広い層におすすめできるのです。

『愚か者の身分』(10月24日より公開中)は闇バイトの若者たちの3日間の物語

『愚か者の身分』は第2回大藪春彦新人賞を受賞した西尾潤の同名小説を原作とした、「若者たちが闇バイトから抜け出そうとするたった3日間の出来事」を描くサスペンスドラマ。実質的に3人いる主人公は、犯罪組織の⼿先として⼾籍売買を⾏うタクヤ(北村匠海)と、その弟分のマモル(林裕太)と、タクヤをこの道に誘った兄貴分の運び屋の梶⾕(綾野剛)です。
彼らはSNSで女性を装い、「パパ活女子」を派遣して、身寄りのない男性たちの個人情報を引き出して稼ぐという、人の道から外れた商売で稼いでいます。その一方で、深夜に勢いでラーメンやカレーを⾷べに⾏ってはしゃいだりする様は、「どこにでもいそうな普通の若者」にも見えるでしょう。
愚か者
(C) 2025 映画「愚か者の⾝分」製作委員会
しかし、「⼤⾦が忽然(こつぜん)と消えた」事件をきっかけに、その日常は崩れ去り、追われつつギリギリで逃げようとする、直近では『ワン・バトル・アフター・アナザー』も連想する逃走劇へと転換。同じ時間での「3つの視点」を語るという、なかなかトリッキーな構成にもなっており、それでこそ「事件当⽇の3⼈それぞれに何があったのか?」というミステリー性もグイグイと興味を惹き、終盤では意外な感動も待ち受けているのです。

『愚か者の身分』で「幸せになってくれ……!」と願わずはいられない理由

『愚か者の身分』の最大の魅力と言っていいのは、「幸せになってくれ!」と願わずにはいられないこと。劣悪な状況に身を置かざるを得ない事情や、「保身に走る浅ましさ」と「仲間を思う気持ち」の間での葛藤、さらには「正しい道を選びたい」という根源的な願望が、ほんのわずかなセリフからも痛いほどに伝わってくるからです。
愚か者
(C) 2025 映画「愚か者の⾝分」製作委員会
やはり、そう感じさせるのは3人の俳優たちの存在感があまりにも大きいからでしょう。一世一代の「賭け」のような行動に出る北村匠海、笑顔が朗らかで純粋無垢にも思える林裕太、劇中でもっとも心理が大きく揺れ動く綾野剛。それぞれが「忘れられない」表情を見せることで、キャラクターが「本当にこの世界のどこかにいる」ような実在感までもがありました。
愚か者
(C) 2025 映画「愚か者の⾝分」製作委員会
また、林裕太は本作の物語を「他⼈によってできた⼼の⽳を埋めるのは、⾃分が誰かに優しくしたり他者を想って⽣きていくことなんだ、という⼈と⼈の関係を描いた物語だと思いました」と読み解いています。

「20歳未満の飲酒描写、又簡潔な肉体損傷描写がみられる」という理由でPG12指定がされる過激さもある作品ですが、その林裕太の言葉通りの「優しさ」も多分に込められている物語にも、ぜひ期待してほしいです。
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『ヒグマ!!』が「ずっと面白い」理由(公開時期未定)
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