ヒナタカの雑食系映画論 第196回

「闇バイト、ダメ絶対!」な映画2選。『愚か者の⾝分』と『ヒグマ!!』に共通する抜群のエンタメ性とは

「闇バイト、ダメ絶対!」と改めて心から思える最新映画2作品を紹介しましょう。「3日間の出来事と逃走劇を描く」「鈴木福とヒグマが戦う」という対照的なアプローチでありながら、ハラハラドキドキのエンタメ性が共通していたのです。(画像出典:(C) 2025 映画「愚か者の⾝分」製作委員会)

『ヒグマ!!』が「ずっと面白い」理由(後述する理由により公開時期未定)

ヒグマ
『ヒグマ!!』公開時期未定 配給:ナカチカピクチャーズ (C) 2025 映画「ヒグマ!!」製作委員会
「闇バイトをする若者役の鈴木福」VS「ヒグマ」という「まさかの対決カード」のおかげか、発表時に大きな話題となった『ヒグマ!!』は、日本で本格的に「モンスターパニック映画」に挑んだ意欲作。いや、もはや『コカイン・ベア』を筆頭とするクマ映画界隈で最高傑作と断言できる仕上がりとなっていました。
設定そのものは特異ですが、主人公が闇バイトに手を染めてしまう描写は、良い意味での「唐突さ」「坂道を転がり落ちるような」印象も含めてリアルで身につまされます。

特殊詐欺の被害に遭って多額の借金を背負っていた父親が自殺し、大学進学の道が断たれ、すがりついた先が、まさに父を追い詰めた諸悪のはずの「闇バイト」だったのですから。個人情報を奪われ、抜け出せなくなる「袋小路感」は心の底から恐ろしくなるでしょう。
ヒグマ
(C) 2025 映画「ヒグマ!!」製作委員会
さらに、山の中でヒグマに襲われる流れは「因果応報」や「泣きっ面に蜂」という言葉でも到底足りない、悪い出来事が積み重なる様こそがブラックなユーモアにもつながっています。

それから先はヒグマとの「どうやって戦うのか?」「最善の一手は何か?」という知恵と勇気を振り絞った「一進一退」「一触即発」のバトルが勃発。意外な伏線の回収や、安易な予想を裏切る展開も用意されており、全編通して「ずっと面白い」と言える内容に仕上がっていました。

ガチで怖いヒグマの造形&あの俳優の大活躍も見どころ

劇中のヒグマが本当に恐ろしく思えるというのも、もちろん『ヒグマ!!』の大きな見どころ。最大の立役者は実写映画『ゴールデンカムイ』や『シン・ゴジラ』での実績もある、特殊造形・メイクデザインを手掛けた百武朋です。
ヒグマ
(C) 2025 映画「ヒグマ!!」製作委員会
劇中のヒグマは言ってしまえば「着ぐるみ」なのですが、「撮影の目的に合わせて1人が演じる二足歩行のヒグマと、2人が中に入って獅子舞のように動く四足歩行のヒグマを使い分けた」というこだわりもあってか、見た目はもちろん「動き方」も本物にしか思えないほどです。

さらに注目なのは、鈴木福と実質的にダブル主演と言っていいほどの活躍を見せる円井わん。放送中のNHKの連続テレビ小説『ばけばけ』でも話題の彼女が、今回は口も態度も悪いけれど「やる時はやる姉御肌」な印象も強い、とてもカッコいいキャラクターにベストマッチ。

愛らしいけどちょっと頼りない鈴木福との「初めは相性最悪でも次第に良いコンビになっていく」という「バディもの」の面白さも存分にあるのです。
ヒグマ
(C) 2025 映画「ヒグマ!!」製作委員会
ちなみに、本作はなんとG(全年齢)指定となっておりますが、実写映画版『ミスミソウ』や『ライチ☆光クラブ』を手がけた内藤瑛亮監督らしい、血しぶきたっぷり、時には肉体の一部が損壊する「生々しい残酷さ」は健在ですので、そこだけはご注意を。

しかし、やはり闇バイトおよびヒグマの恐ろしさを示す残酷描写には確かな意義がありますし、その意味でも若い人にこそ見てほしいのです。

また、「えっ!?」とびっくりすること間違いなし、とあるネタバレ厳禁の「始まり方」も、若者こそが笑いつつも共感できるのではないでしょうか。こちらも楽しみにしてください。
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『ヒグマ!!』公開延期を決定する誠実さ
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