その『チェンソーマン』の原作者である藤本タツキは大の映画ファンで、カジュアルに刺激を受けた作品を公言しています。今回の映画の入場者特典の第1弾の小冊子『恋・花・チェンソー・ガイド』でもインスピレーションの元になった映画がたっぷりと書かれていました。ここでは、一挙10作品を、『レゼ篇』本編のネタバレありで解説しましょう。 ※以下、『チェンソーマン レゼ篇』の重要なサプライズ要素、ネタバレに触れています。そちらの鑑賞後にお読みいただくことをおすすめします。
1:『人狼 JIN-ROH』(2000年)
藤本タツキが「話作りで下敷きにする部分が多かった劇場アニメ」と語った『人狼 JIN-ROH』は、銃殺シーンの残酷さのためにPG12指定がされた大人向けの作品。「架空の戦後」を舞台に童話『赤ずきん』を踏まえた物語が進行しており、全体的な作風はかなりダークでダウナー。「後味の悪い映画」としても知られています。『レゼ篇』と共通するのは、出会った少女が、主人公にとっては敵対する(そうせざるを得ない)存在だった、という悲劇性。その少女が爆弾や武器の運搬をしていたことも、レゼが「ボム」という爆弾の悪魔だったことともシンクロしています。 実際に藤本タツキは、ガイドブックにて「『人狼 JIN-ROH』で女の子が爆弾を爆発させるシーンがあるのですが、その起爆装置の紐を引くシーンがすごく好きで、これで(レゼが)変身したらカッコいいと思ったんです」「僕にとっての『恋』と『爆発』には共通点もあります。一瞬で、すさまじいことが起きるけれど、そのあとには何も残らないという」とも語っています。
『人狼 JIN-ROH』は藤本タツキが言うように恋愛映画というわけではありませんが、どのように恋(に近い気持ち)と爆発が描かれるのかは、ぜひ実際にご覧になってほしいです。
2:『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離(ディスタンス)』(1995年)
ガイドブックではなく、劇場パンフレットで「『レゼ篇』の下敷きの1つ」と藤本タツキが明言している『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』は、共に列車を降りた男女による、たった14時間だけの関係を綴るラブストーリーです。 「ずっと会話をしているだけ」と言っても過言ではない内容ながら、ウィーンの美しい風景に見惚れ、2人の哲学的な言葉に惹かれていく。時には言葉以外でも心の変化が伝わってくる、恋愛映画の名作でした。実際に藤本タツキは同作を「男女の距離が近づく様子が印象的」「女性が初めて会った男性に死んだ祖父の話をして、精神的にすごく近づいてくる」「その後、レコード屋の狭い試聴スペースで一緒に音楽を聴いて、肉体的にも接近する」と語りつつ、『レゼ篇』では「そういった精神・肉体の両面の接近を、電話ボックスのシーンで描こうとしました」と語っています。両方の作品から、「精神的にも物理的にも心の距離が近づく」共通点を見出せるでしょう。 なお、ガイドブックでは「今ぱっと浮かんだ、好きな恋愛映画」について、藤本タツキは『ビフォア・サンセット』も挙げています。こちらは『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』から9年後に制作された続編で、劇中のキャラクターにとっても9年後の再会が描かれており、その「リアルタイムの時間の変化」も、良い意味で生々しく、時には愛おしく感じられる作品でした。
3:『台風クラブ』(1985年)
『台風クラブ』は藤本タツキが言うところの「台風が直撃した夜、学校に閉じ込められた生徒たちの話」であり、この映画で「夜の学校は何かおかしなことが起きる場所」という印象を植え付けられたのだそうです。言わずもがな、その印象は『レゼ篇』では夜の学校に忍び込んでのデンジとレゼのデートで反映されています。藤本タツキは「もちろん2人でロマンチックな雰囲気もありますが、どこかおかしな空気を出したかった」とも語っており、『台風クラブ』でも思春期の少年少女の瑞々しい青春を描いているようでいて、「夜の学校」と言う場所だからこそのおかしな空気、というよりも「危うさ」を存分に感じられるようになっています。
その後にデンジとレゼがプールで裸になっての大はしゃぎも、『台風クラブ』での今では撮影自体が許されないであろう、生徒たちが下着姿で台風の中で踊るシーンを参考にしているのでしょう。
余談ですが、細田守監督の『おおかみ子どもの雨と雪』も『台風クラブ』に強い影響を受けた作品で、クライマックスではまさに台風のために学校に閉じ込められる様子が描かれています。



