1:原作者と監督が「相思相愛」である
原作小説の最大の特徴は、フィクションでありながら「週刊誌や月刊誌の記事」「読者からの手紙」「インタビューのテープ起こし」といった体裁の文章を挟み込むことで、それぞれが「本当にあったことのように思える」こと。そのリアリズムが恐怖につながっていました。とはいえ、それらはどこまで言っても「読み物」なので、そのままでは映像化はできません。映画化そのものが難しい原作といえるでしょう。
一方で、白石監督も『近畿地方』を読んで「『ノロイ』を好きな人が書いているんじゃないか」「映画化するなら私だよな」と思ってもいたのだとか。いわば、映画をリスペクトして書いた小説が、その映画の監督によって映画化されるという、原作者と監督が「相思相愛」であり、「座組からして理想的な映画化」なのです。
ちなみに、背筋は本作では脚本協力としてクレジットされています。映画化に際しては全体の構成や整合性のチェック、劇中劇のアイデア出しなどにも関わったものの、「最初にプロットをいただいた時点で『全部お任せしたい』と思えた」ほどに制作陣を信頼していたそうです。それは、「原作が叙述トリックを使って何を伝えたかったのかの芯の部分を汲み取って下さり、映画版ならではの思い切った選択と集中を施して新たなギミックを作って下さった心意気と手腕に感銘を受けたから」だったのだとか。
2:「劇映画」と「モキュメンタリー」のハイブリッド
白石監督は『貞子VS伽椰子』や『サユリ』といった「劇映画」のホラーも手掛けていますが、さらに得意とするのは「モキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)」というジャンルです。それは、インタビューやテレビ番組やホームビデオといった「実際の映像っぽく撮られた作りものの映像」で構成された作品で、前述した『ノロイ』のほか、ドラマ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズもそれに当てはまります。 前述のように、『近畿地方』は「まるで本当にあった出来事のように感じられる」物語が巧みに織り交ぜられているため、「フィクションでありながら現実の映像のように見せる」モキュメンタリー形式の映像と非常に相性が良いのです。さらに、今回は「劇映画とモキュメンタリー」のハイブリッドになっていることも重要。劇映画の部分さえも「本当にあったことのように」錯覚する効果を生んでいます。それも櫛山慶プロデューサーの狙いであり、だからこそ菅野美穂と赤楚衛二という、「リアリティーのある芝居ができる点で間違いない」2人を主演に迎えたのだとか。
しかも、そこには各々のパブリックイメージを利用する仕掛けもできると考えていたそうです。櫛山プロデューサーによると「菅野さんは特に近年の出演作で、働く女性像、母親像の代表であり最先端」「赤楚さんは、ちょっと頼りないけれど可愛がられる役を魅力的に演じてきた」といった印象とのこと。それが、本編ではどのように映るのでしょうか……。



