3:「つながる」だけじゃなく、「明るい」ことも怖い
本作のあらすじは、オカルト雑誌の編集者が突然姿を消し、彼が失踪直前まで追っていた事件の記事や配信動画、さらには関係者への取材を通して、その全てが“近畿地方のある場所”に結びついていくことが明らかになる……というもの。主人公である同僚の編集部員(赤楚衛二)とオカルトライター(菅野美穂)がコンビで謎に挑むという、「考察もの」のミステリーの面白さが前提にあるのです。
そして今回の映画では、映像に「明るい」雰囲気があること自体が、かえって恐怖を呼び起こす要素となっています。ニコ生の配信者が最初はテンション高めにふるまっていたことや、女子高生が「不幸のメール」を受け取っても「私が死ぬわけねーだろ!」と笑い飛ばす場面、団地の子どもたちが鬼ごっこをしているかと思いきや、実は“そうではない”遊びをしていたり、「表向きは善意に満ちた宗教」が登場したりすること……それら自体はまったく怖くないはずなのに、それに関連する事象を思えば、逆に「明るさこそが不気味になる」効果を生んでいるのです。 さらに本作では、原作者の背筋が書き下ろした上で作られた、「(絵本が原作の)昔話風のアニメーション映像」もあります。それは「こわい話」という名目で作られているとはいえ「子どもにも聞かせる話」であり、絵柄には朴訥(ぼくとつ)とした親しみやすさ、なんならかわいらしさもあるのですが……やはり、トータルでは不気味なものとして映ります。
こうした、「見た目は明るくて怖くないはずなのに、関連する出来事を思い出すと気味が悪くてどうしようもなく怖くなる」感覚や、新興宗教が物語に関わってくる点は、なるほど、“明るい場所で展開されるホラー映画”として話題になった『ミッドサマー』とも通じるものがあるのかもしれません。 そして、劇中にはとある「秘密」があり、その秘密の先にもまた「明るさ」が……いや、ある意味では「ポジティブ」な事象があるのですが、それこそが劇中で最大の恐怖になっていました。ここでもう筆者はこう思いました。「勘弁してくれ!」「もうこれ以上気分を悪くさせてくれないでくれ!」と。
それらを「どうせ作りもの」と思ってしまうと冷めてしまうかもしれませんが、徹底的なまでの映像の作り込みで「本物に思えてしまう」というのが、この『近畿地方』の最大の美点でしょう。一方で、クライマックスで「白石監督節」が炸裂した「基本は物理で攻撃する」勢いのある展開および、目で見える画の「暴走」っぷりは激しく賛否が分かれていますが、個人的にはそれも含めて楽しめました。この映画を作ってくださってありがとうございます(真顔で)。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。



