電車内の「迷惑スーツケース」問題にはワケがある!? 外国人旅行者が戸惑う日本のインフラ3選

私たちにとっては当たり前でも、訪日外国人から見ると戸惑ってしまうインフラがいっぱいの日本。海外在住の筆者が帰国時にあらためて驚かされる「日本のインフラの当たり前」について、文化的背景を交えて紹介します。(サムネイル画像:PIXTA)

外国人旅行者は日本の何に驚いている?(サムネイル画像:PIXTA)
外国人旅行者が驚く日本のインフラとは(サムネイル画像:PIXTA)
日本は清潔さや治安のよさ、サービスの丁寧さで多くの外国人旅行者を魅了しています。しかし中には「なぜ?」と驚く場面も多々ある模様。今回は、特にヨーロッパからの訪日客が感じやすい、日本のインフラにまつわる驚きポイントを文化的背景を交えて紹介します。

外国人が驚く、街中の「黄色い点字ブロック」

ィーン市内の点字ブロックは落ち着いた色合いに加え、床に凹凸が彫り込まれているのでスーツケースやベビーカーの通行も妨げない(画像出典:Robert Peres / Wiener Linen )
ウィーン市内の点字ブロックは落ち着いた色合いに加え、床に凹凸が彫り込まれているのでスーツケースやベビーカーの通行も妨げない(画像出典:Robert Peres / Wiener Linen )
日本の駅や道路には、黄色い点字ブロック(視覚障害者誘導用ブロック)が驚くほど広範囲に設置されていますが、これに疑問を持つ外国人は少なくないようです。

見た目のインパクトが強く、びっしりと敷き詰められた凹凸に阻まれてスーツケースを引きづらいのがその理由でしょう。というのもヨーロッパには点字ブロックがそれほど多くないうえ、点字が床に彫り込まれていてベビーカーやスーツケースの通行もほとんど妨げないからです。

日本とヨーロッパで点字ブロックの設置状況が異なる背景には、視覚障害者の移動手段の違いがあります。これは点字ブロックが日本で発明されたことに加え、「盲導犬の普及率の差」が大きな理由と思われます。

人口100万人当たりの盲導犬普及数が日本では約6頭であるのに対し、スイスでは6倍以上の40頭

というのも、ヨーロッパでは犬は家族やパートナーとして深く根付いた存在で、獲物を追ったり、羊を誘導したり、住まいを守ったりと、狩猟や牧畜を通して長らく人間と共存関係を築いてきました。盲導犬や介助犬もその延長上にあり、「障害者と共に社会参加するパートナー」という位置付けでレストランや電車に犬が同席している光景は日常的ですし、犬用の乗車券も販売されています。

一方、農耕社会だった日本では犬との関係性にもう少し距離があります。文化的・衛生的観点からも公共空間に動物を連れて入ることへの心理的ハードルが今なお残っています。そのため、日本では物理的なサポートである点字ブロックのインフラが発達したのではないでしょうか。

外国人が驚く、電車内に「大型荷物が置けない」

アウトドア派の多いヨーロッパでは自転車専用スペースも列車内に完備 ©SBB CFF FFS(スイス連邦鉄道)
アウトドア派の多いヨーロッパでは自転車専用スペースも列車内に完備(画像出典:SBB CFF FFS スイス連邦鉄道)
日本の鉄道は時間通りで清潔、まさに世界に誇れるインフラです。しかし外国人旅行者が驚くのは、スーツケースを置くスペースがほとんどないという点。

大型荷物用のスペースは当たり前

それもそのはず、ヨーロッパの列車は「大きな荷物を持った移動」を前提に設計されており、一般的に大型荷物用スペースが確保されているからです。さらに、ベビーカーや自転車専用スペースなどもあり、子育て世代やアウトドア派でも移動に困ることがありません。

一方、日本の新幹線や電車では、大型荷物を置くスペースはあまり見かけません。そのため外国人旅行者は置き場所に困り、結果的に通路やドア付近をふさいでしまうのです。これは旅行者のマナー問題というよりも、設計段階で大型荷物用のスペースを想定していない点が荷物難民を生み出してしまっていると考えられます。

宅配文化が発達している日本

人口の多い日本では、都市部を中心に多くの人を列車に詰め込む「高密度輸送」が優先されています。つまり荷物置き場を作るスペース的余裕がないことに加え、「宅配文化の発達」もその理由として見逃せません。

日本ではホテルや空港間で便利にスーツケースを宅配できるシステムが確立されており、「大きな荷物は事前に送る」という発想が定着しているため、列車に荷物を持ち込む必要がありません。

しかし、この便利な宅配サービスは外国人には知られていない上、荷物を預けることに抵抗がある文化もあります。

なぜなら、ヨーロッパの宅配便は日本ほど発達しておらず、空港やホテルのフロントから宅配便を送るサービスも見たことがありません。それに、ヨーロッパ内でも特にラテン系の国(イタリアやフランスなど)では、書留小包でさえも届かない場合があります。

実際に筆者もわざわざ有料追跡サービスを付けたのに、「途中で追跡不可になりました」という驚くようなメッセージを受け取った経験が何度もあります。郵便や宅配に対する信頼性が低いヨーロッパでは、旅行荷物を送るという発想は出にくいのでしょう。

外国人が驚く、トイレの「洗浄ボタンが多過ぎる」

外国人にとって、日本のトイレは驚きの宝庫(画像出典:PIXTA)
外国人にとって、日本のトイレは驚きの宝庫(画像出典:PIXTA)
日本のトイレは世界一と称されるほど高機能ですが、初めて使う外国人にとっては逆に戸惑う存在でもあります。

ボタンが多過ぎて……
というのも、ヨーロッパ各国のトイレは大小の洗浄ボタンのみという大変シンプルなものばかりだからです。

それに引き換え、日本のトイレにはビデや温水洗浄便座、便座の温度調整といった細かな設定ボタンが大きなパネルに所狭しと並んでいる上、肝心の洗浄ボタンやレバーだけが離れた目立たない位置にあることも多く、トイレ内でまごつく外国人は少なくありません。

「音姫」は不思議な存在

もう1つ、外国人に不思議がられる機能といえば「音姫」に代表されるトイレ用擬音発生装置。ヨーロッパでは見かけないばかりか、その存在意義さえ理解されません。

筆者が客室乗務員として働いていた時、同僚の外国人クルーたちに「なぜトイレで音が流れるの?」と尋ねられて理由を説明したところ、「自然な音を隠すなんて!」と笑われ、逆にこちらが驚いたことがあります。

ヨーロッパの人はトイレの音以外にも、人前で爆音をたてて鼻をかむこともいとわないため生理的な音には無頓着……なのかと思いきや、日本人が麺類をすする音には顔をしかめて嫌悪感を示しますから難しいものです。

このように、日本では当たり前とされている街づくりや設備も、文化や価値観の異なる外国人から見ると戸惑いや驚きの対象となることがあります。しかしその背景を知ることで、相手を優しい目で見られるようになるかもしれません。

<参考>
2024年度 盲導犬訓練施設年次報告書」(日本盲人社会福祉施設協議会)
2023 Survey on Assistance Dogs in Europe」(欧州盲導犬連盟) 
 

この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。

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