海外から眺めてみたら! 不思議大国ジャパン 第34回

舞妓さん追いかけ撮影や私有地への無断侵入……祇園も悩む迷惑行為、観光客はなぜやってしまうのか

京都の祇園を悩ます、外国人旅行者による私道への無断立ち入り問題。ヨーロッパの観光地でも同様のケースが発生していますが、なぜ観光客は所構わずプライベート空間に立ち入ってしまうのでしょう。※サムネイル画像:Shutterstock.com

京都・祇園の撮影や進入を禁止する立て看板 ※画像出典:Shutterstock.com
撮影や進入を禁止する京都・祇園の高札 ※画像出典:Shutterstock.com
京都の祇園地区ではオーバーツーリズム(観光公害)対策として、2024年より祇園の花見小路周辺で「私道への進入禁止」が正式に条例化され、違反者には最大1万円の罰金も設けられて話題となりました。

観光公害に悩む世界遺産の小さな村

このような事態が起こっているのは祇園だけではなく、筆者が過去に住んでいたオーストリアにある世界遺産の小さな村「ハルシュタット」でも同様の観光公害が住民たちを悩ませています。
ハルシュタットは、土産物店も民家も同じように可愛らしい造りで、観光客が村全体をテーマ―パークのように勘違いしてしまう(筆者撮影)
ハルシュタットは、土産物店も民家も同じようにかわいらしい造りで、旅行者が村全体をテーマ―パークのように勘違いしてしまう(筆者撮影)
ハルシュタットはその絵本のような景色から「世界一美しい湖畔の村」と言われ、映画『アナと雪の女王』のモデル地と噂される風光明媚(めいび)な湖沼地帯の村。2012年には中国広東省にこの村のレプリカが丸ごと建設されたことを巡り、賛否両論を巻き起こした人気観光地の1つです。

ハルシュタットでは、外国人旅行者によるドローンの飛行や深夜まで続く騒音(ドイツ語圏では騒音に対する意識が非常に高い)、観光バスによる交通渋滞と駐車場不足、旅行者向けの短期賃貸物件の増加による通常住宅の不足と家賃の高騰、ゴミ出しや公共スペースにおける喫煙などのマナー違反行為……など、あらゆる観光公害が大きな問題となっています。中でも「私有地への無断進入」は最もよく聞かれるテーマです。

門扉を開けて「勝手に」庭に入る旅行者が続出

実際に筆者自身がハルシュタットを訪れた時には、赤や黄色などの鮮やかな服装をした黒髪のアジア人旅行者たちが、私有地の庭にある門扉を勝手に開けて民家の庭に立ち入る様子を目撃したことがあります。

服装や話す言語から日本人ではありませんでしたが、同じアジア人旅行者としていたたまれない気分になりました。同行していたオーストリア人家族いわく、「入ってはいけないから柵と戸が設けられているのに、それをわざわざ開けて入る神経が信じられない」とのこと。

祇園でもハルシュタットでも、なぜ旅行者はぶしつけにプライベート空間に立ち入ってしまうのでしょう?

テーマパークと勘違い

前述の、中国国内にあるハルシュタットのレプリカやディズニーランドのように、世界にはヨーロッパ風のテーマパークが数多く存在します。

映画のセットのような美しい街であれば、観光施設と私有地の境界があいまいに感じられ、生活空間を観光資源の一部と誤解してしまうケースがあるようです。

プライバシー感覚の違い

国や年代によっては、観光地での「写真映え」や「SNS映え」が非常に重視されており、撮影スポットへの強いこだわりから個人の敷地でも構わず入ってしまうことがあるようです。

また、密集都市での生活環境に慣れている人の場合、祇園の私道やハルシュタットの個人の庭が立ち入り禁止であることを認識しづらいことも一因であるようです。

情報不足

一部の旅行者には、現地の言葉どころか英語すらも通じにくく、注意書きの意味を理解できていないこともあります。またSNSのイメージから、祇園やハルシュタットが「自由に歩き回れる街」として過剰に理想化されており、現地でのルールが十分に周知されていないことも原因かもしれません。

京都・祇園の取り組み

祇園では、冒頭の条例制定に加え「私道での写真撮影・通り抜け禁止」と書かれた高札を英語と中国語で設置したり、「舞妓さんおさわり禁止」のピクトグラム看板を立てたり、警備員の配置を進めたりしながら住民の生活環境を守ろうとしているようです。

またハルシュタットでも、民家の塀や窓に「Private(私有地)」「Do not enter(立ち入り禁止)」などの多言語表記サインの増設、旅行者への啓発パンフレットの配布、地元住民による敷地境界の強化といった自衛対応をして頑張っているようです。

別の記事でも触れましたが、過去にローマで「トレビの泉」に飛び込んだのはニュージーランド人、「コロッセオ」の壁に落書きをした旅行者はイギリス人とドイツ人でした。マナー違反を犯すのは特定の国の人だけではありません。

多くの観光地がオーバーツーリズムにさらされる中、観光マナー教育の不足や過剰なSNS写真至上主義の在り方が問われています。
 

この記事の筆者:ライジンガー 真樹
元CAのスイス在住ライター。日本人にとっては不可思議に映る外国人の言動や、海外から見ると実は面白い国ニッポンにフォーカスしたカルチャーショック解説を中心に執筆。All About「オーストリア」ガイド。

 
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