伝統の変革から得られた教訓
──新入部員の中に、奇抜な髪型をしそうな子は出てきませんか?「実は中学生のときから、ちょっと派手な髪型をしている生徒がいて(苦笑)。でも、すごく真面目な子なので、これから直していこうねっていう話をして、ちゃんと受け入れてくれています」
──青森山田の「自由の境界線」を教えていくわけですね?
「髪型に関しては、自由化をして間もない頃にかなり手を焼かされた生徒がいましたからね(苦笑)。最近はそういった子も少なくなりましたけど、もしかしたら丸刈りにしていた頃の方が、そういった意味では指導は楽だったのかもしれません」
──髪型って、自分らしさを表現する第一歩的なところがありますよね。特に思春期の高校生たちは、「こういう自分を見てほしい」といった思いが髪型に表れたりもします。
「それも分かりますけど……。ただ、語弊があるかもしれませんが、選手としてめちゃくちゃ強ければ、たぶんどんな髪型したってカッコよく見えるんです。全国トップの選手がごく普通の髪型をしていても、『あ、カッコいいな』ってなる。逆にフェードカットにしてビリを走っていたら、『カッコつけて何やってんだ?』ってなると思うんです。結果を残せなかったら、ただのカッコつけで終わりですからね」
──青森山田で言えば、サッカーの松木玖生選手(現ギョズテペSK)が、高校時代から特徴的な髪型をしていましたよね?
「彼に関しては、当時から将来のビジョンというものを明確に持っていた選手なので、どういう髪型にしても結果は残したと思うんです。でも、そういう明確なビジョンを持たない中途半端な選手が、自由の意味をはき違えて同じようなことをやると、やっぱり結果も残せない。ビジョンがあれば、今、自分がどのように振る舞うべきか考えますし、その実現に向かって努力もしますからね」
──今振り返って、あのときに決断してよかったなと思いますか?
「はい、よかったです。もちろん指導の難しさはありますが、何よりスカウティングの面でかなり楽になりましたから(笑)。ルールで縛れば強くなるわけではないということは、実感しています」

この記事の執筆者:吉田 治良 プロフィール
1967年生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。2000年から約10年にわたって『ワールドサッカーダイジェスト』の編集長を務める。2017年に独立。現在はフリーのライター/編集者。