令和の高校生が「納得できない」ルールに、名門陸上部が下した英断

部活動の髪型ルールに納得できない場合、3人に1人が退部や転部を検討しているという調査結果がある。陸上の強豪・青森山田高校の河野監督は、長年の「丸刈り」伝統を撤廃し、スカウトやチームに大きな変化をもたらした。その決断の背景と効果に迫る。

決断のタイミングと生徒やOBの反応

──ちなみに、8年前にルールを変えると決めたとき、どういったタイミングで生徒に伝えたんですか?
 
「その年の10月、高校駅伝の青森県大会で優勝した後ですね。『これからはもう髪型は自由だよ、全国大会まであと2カ月、それまで伸ばすんだったら伸ばしてもいいよ』って。まあ、丸刈りから2カ月くらい伸ばしたところで、たいして変わらないとは思いましたけど(笑)」
 
──どんな反応でしたか?
 
「えっ? って感じでしたけど、事前に何人かには『もしかしたらルールを変えるかもしれないよ』っていう話はしていたので、『やっときたか』みたいなリアクションもありました。3年生は競技生活が残りわずかなので悔しかったでしょうが、そこを気にしていたら永遠にルールは変えられないので、仕方ないです」
 
──自分は丸刈りのままでいいです、という生徒は?
 
「いなかったですね(笑)」

──OBからの反対の声はありませんでしたか?
 
「一応、自分が教えていた卒業生には電話をして伝えましたけど、大半が賛成してくれましたね。田澤廉(青森山田高→駒澤大→トヨタ自動車)からも、『選手が取れなくて駅伝で負けるよりはいいんじゃないですか』っていう言葉をもらいました」

ルール撤廃前後で成績は変わったのか

──丸刈りルールを撤廃されてから8年。その前と後で成績は変わりましたか?
 
「坊主をやめた後、毎年全国大会で入賞(8位以内)しているかって言ったらそうではないんですけど、おととしが19位、去年が14位と、この頃はやっと10番台が多くなってきましたね。10年前と比べればちょっとずつ成績は上がってきていて、今年3月の春の高校伊那駅伝では5番に入りました」
 
──スカウティングの成果は感じていますか?
 
「そうですね。去年の青森県の中学3年生は強い選手ばかりだったんですが、そうした選手が今年、一気に13人も入部してくれましたからね。

結局、全国大会で10番台になって、『青森山田の練習は厳しそうだ』っていう話が伝わると、中途半端な記録の子は『耐えられないかもしれないから』と言って、うちには来ないんです。逆に、本当に青森山田で全国のトップを目指したいっていう子たちが集まってくれるようになりました」
 
──今はほとんどが県内の選手ですか?
 
「そうですね。今年の1年生も13人中県外の選手は2人だけです。本当は県外からもっといい選手を取りたいんですけど、東北だと南には仙台育英(仙台育英学園高等学校)、さらに福島まで行けば学法石川(学校法人 石川高等学校)という強豪校がありますから、なかなか難しいですね。

ただ、丸刈りルールを撤廃していなければ、今も青森県内の優秀な選手があちらに流れていたでしょうね。仙台育英も学法石川も、以前から髪型は自由でしたから」
 
──新入生に多くの好素材がいるとなれば、2年後くらいが楽しみですね。
 
「そうですね。選手個々で伸びしろは違うので、これからどこまで成長してくれるのか未知数な部分は大きいですが、楽しみではありますね」
 
──今後の目標は?
 
「全国大会で優勝、もしくはそれに近い成績を毎年コンスタントに残せるようなチーム作りはしていきたいですね」
 
──やはり日本一にはなりたいですよね。
 
「今の1年生が3年生になるときに、ちょっと狙っています(笑)。4月7日の入学式の翌日に、全員を集めてそんな話もしました。今年は全国大会で入賞を狙おう、2年生になったら5番以内を目指そう、そして3年生で優勝しようって。あとは13人の部員たちがどこまで食らい付いてくるかですね」
次ページ
自由化の難しさ…指導の手間が増えることも
Lineで送る Facebookでシェア
はてなブックマークに追加

編集部が選ぶおすすめ記事

注目の連載

  • ヒナタカの雑食系映画論

    『スーパーマン』を見る前に知ってほしい5つのこと。排外主義が問われる今の日本だからこそ必見の理由

  • 世界を知れば日本が見える

    なぜアメリカはイランを攻撃したのか。トランプ政権による軍事介入の真意、中東の今後は

  • AIに負けない子の育て方

    「学校に行きたくない」その一言に隠された、子どもからの本当のSOSとは【不登校専門家が解説】

  • 恵比寿始発「鉄道雑学ニュース」

    万博への道は「動くパビリオン」だ! JRエキスポライナーの衝撃車内&ラッピング車両の魅力に迫る