世界を知れば日本が見える 第66回

なぜクルド人は「叩かれる」のか。日本の難民制度を「悪用」していると見られてしまうワケ

4月5日に放送されたNHKの番組『フェイクとリアル~川口 クルド人 真相』が「偏向報道」であるとして物議を醸した。難民制度の“乱用”や治安悪化などへの懸念から批判が強まる中、日本の移民政策の課題が浮き彫りになっている。

日本以外のクルド人への対応は?

クルド人移民はほかの国にも多く存在する。100万人以上のクルド難民を抱えるドイツをはじめ、イギリス、オランダ、カナダ、 スウェーデンなどに数多くのクルド人難民が暮らしている。アメリカにはテネシー州に元クルド難民らが暮らす「リトル・クルディスタン」が存在するくらいだ。

ただ日本にいるクルド人らは、彼らと違って、不法または微妙な立場で日本にとどまっている場合が多い。だからこそ、多くの人たちが違和感を覚えている。欧州やアメリカでは難民として受け入れており、クルド人もそれぞれの国のルールになじんで生活をしている。

ところが日本は、過去にほぼクルド人を難民として受け入れたこともないのに、事実上、難民申請で日本滞在することは許し、クルド人側も、不安定な立場ゆえに日本に腰を据えてなじむことができないまま、日本の文化やルールを軽視していると言える。

日本政府の「中途半端な対応」がもたらしたもの

日本はトルコのパスポート所持者に対しては3カ月以内なら「ビザなし」で入国できるように定めている。だがトルコ籍のクルド人は観光目的で入国し3カ月が過ぎたところで、難民申請を繰り返す人が多いので、まずは難民申請を悪用しようとする人たちを水際で食い止めるルールをきちんと整備したほうがいい。

日本政府の中途半端な対応が続けば、今も数多くいるクルド人らへの批判が日本の外国人全体に対する意識の悪化を生むような事態にもなりかねない。移民全体が迷惑をかぶることになる。

そもそも日本人は、外国人や移民に対して決して排他的な人ばかりではない。多くは、正当に日本に来て、日本社会になじんでいる外国人を寛容に受け入れてきたと言える。

先に述べた通り、在日外国人の国籍を見ても、トップは中国で、2位はベトナム、そして、韓国、フィリピン、ネパールと続くが、基本的に正当に日本に来ている彼らとは、クルド人とのような軋轢(あつれき)はない。

日本は日系ブラジル人との共存のように日本の文化を尊重する人たちとは問題なく共存できている。ベトナム人も、偽装留学や窃盗団を組織しているとの指摘がネットなどで見られるが、クルド人に対する非難のような動きはない。中国人やインド人は、各地に中華街があったり、東京にはリトル・インディアと呼ばれるインド人コミュニティーが存在している。

超少子高齢化の日本、移民の“受け入れ方”が問われている

今後、少子高齢化が深刻な日本では、将来的にはこれまで以上に移民を受け入れていかなければならないだろう。もちろん、政府による少子化対策や女性の活躍促進、AIなどテクノロジーの進化などでカバーできる部分も出てくるだろうが、それでも移民を受け入れていくことになると見ていい。

もっとも、日本政府は1990年代から少子化対策して失敗してきたので、そんな政府に任せても状況は変わらないという声もあるだろうし、女性の活躍促進でも税収を守りたい勢力が「年収の壁」緩和に抵抗している事実などから、少子化は今後、劇的には改善されないと感じる。そうなると、移民に頼るしかなくなる。

問題は、どう移民を受け入れるかだ。クルド人との軋轢で感じるのは、少なくとも、難民申請を繰り返して日本滞在を続けられる現状を変えるべきだ。さもないと、移民への批判が、日本に必要な外国人ら全体に波及しかねないのである。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

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