処遇改善だけでなく、これからの教育を語り合う場づくりを
先行き不透明なVUCAの時代に、学校教育はどんな役割を担うのか。何のための教育なのか、その目的から問い直していくことが必要なのではと筆者は考えます。
その方向性を表している「学びの共同体」という活動があるので紹介しましょう。
「学びの共同体」では、東京大学名誉教授の佐藤学氏らによって、子どもも教師も「学び合う」授業が考案され、30年以上前から全国の学校で実践されています。海外にも広がっている取り組みですが、知らないという若手の先生もいらっしゃるでしょう。学びの共同体は21世紀型の学校のヴィジョンであり、哲学であり、活動システムです。学びの共同体の学校改革は、学校を子どもたちが学び合う場所にするだけでなく、教師たちも専門家として学び育ち合う場所とし、親や市民も改革に参加し協力して学び合う学校づくりを推進しています。
その目的は、1人残らず子どもの学びの権利を実現し、1人残らず教師の専門家としての成長を保障し、大多数の親や市民が信頼し協力し合う学校を実現して、民主主義社会を準備することにあります。(学びの共同体研究会ホームページより)
以前、少しずつでも現場をよくしていこうと、この「学び合う」授業を個人的に実施し、自身が校長になってから学校全体に広げて成果を出している先生の取材をしたことがあります。この学校の子どもたちは生き生きと主体的に学び、先生も楽しそうでした。
坂田氏も、今回のイベントが各地でふきこぼれそうになっている教員のコミュニティーができるきっかけになるとよいと話していましたが、教育はやはり、社会を作っていく要です。個人でできることには限りはありますが、集合知性が全体を動かしていく力になります。
理想主義だと言われるかもしれませんが、「ふきこぼれ教員」も、現場で踏ん張る教員も、そして保護者も一緒になって、どんな社会を作っていきたいのか、そのために教育はどうあるべきなのかという本質から対話していくことが大切なのではないのか……。そんなことを考えながら会場を後にしました。
この記事の執筆者:中曽根 陽子
数少ないお母さん目線に立つ教育ジャーナリストとして、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエーティブな力を育てる探究型の学びへのシフトを提唱。お母さんが幸せな子育てを探究する学びの場「マザークエスト」も運営している。『1歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)など著書多数。



