ヒナタカの雑食系映画論 第156回

映画『ベター・マン』はなぜ主人公を「猿」にしたのか。見る前に「身構えて」おくべき5つのこと

公開中の『ベター・マン』は予備知識がなくても楽しめる内容ですが、確実に「身構えて」おくべき要素もありました。実在の世界的ポップシンガーのロビー・ウィリアムスを「猿」として描いた理由も含めて、解説しましょう。(画像出典:(C)2024 Better Man AU Pty Ltd. All rights reserved.)

5:ストリートを封鎖して撮影した長回しのダンスシーンがスゴすぎる!

そんな風に『ベター・マン』は大胆でトリッキーなアプローチがされた映画ながら、主人公が挫折から復帰する王道のサクセスストーリー&伝記映画、かつ圧巻のミュージカルであり、正統派の面白さもまた魅力の作品。映画館で没入して鑑賞する意義を存分に感じられるでしょう。

その中でも本作の白眉は、ロンドンのリージェント・ストリートを封鎖して行われた『Rock DJ』が歌われるダンスシーンです。撮影間近にエリザベス女王の逝去により撮影が延期されたものの、何度もシミュレーションを繰り返しての再撮影が行われ、同時に500人以上の人たちが踊るという前代未聞のチャレンジは、尋常ではない「長回し」のカメラワークも相まって、とてつもないゴージャスさと高揚感がありました。
 

ほかにも『She’s The One』が歌われるロマンティックな船の場面では巨大なヨットのセットを作り上げた上で撮影、『Let Me Entertain You』のパフォーマンスでは3万人を越えるエキストラによる撮影と2003年に行われた実際のコンサートのライブ映像がミックスされるなど、その労力と技術のかいがある圧巻の映像を目の当たりにできることでしょう。

おまけ:連想した「正しくなさ」を描く映画は?

最後に余談ですが、この『ベター・マン』から強く連想した映画は2つあります。その1つが2019年の『ロケットマン』で、こちらはエルトン・ジョンの半生を描く内容ながら過激な描写が多くPG12指定で、やはり世界的な歌手の「正しくなさ」を描く内容が一致しています。
 

さらに連想したのは、2022年の『バビロン』。『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督作ながらR15+指定になるほどの過激さで、映画の黄金期の「正しくなさ」をブラックコメディーのように描く内容のため、「汚いラ・ラ・ランド」「漫☆画太郎の描くニュー・シネマ・パラダイス」とも揶揄(やゆ)されるほどでした。
 

この2作も併せて見てみて、「実際にあった良くないことも描く」映画の魅力を、もっと知ってみるといいでしょう。この『ベター・マン』もまた、感動のラストを迎えるようでいて、やっぱり主人公の正しくなさや自虐もはっきり示している、ある種の「振り切った」印象も含めて、やはり面白いと思えるのですから。

この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。
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