
世界的ポップシンガーを「猿」として描く映画
何しろ、そのロビー・ウィリアムスこと主人公を「猿」として描いているのですから。しかも、劇中で猿であることを周りから気にされる描写は一切なく、あくまで「観客にだけ猿に見えている」という体(てい)で話が進むのです。同作は第97回アカデミー賞で視覚効果賞にノミネートされており、その奇抜なアイデアはもとより、後述するように「猿が当たり前に圧巻のパフォーマンスをしていること」、それにより「今までに見たことがない」光景が広がることが大きな魅力となっていました。
実際のロビー・ウィリアムスをまったく知らなくても楽しめる、そのほかの予備知識も特には必要としない、分かりやすくエンタメ性に満ちた内容です。そのことを前提として知ってほしい、いや「身構えておくべき」要素があることも事実。一挙に紹介しましょう。
1:PG12指定納得の過激さ! 違法薬物の使用や『鬼滅』のような残酷さも?
本作の最大の注意点は、PG12指定(12歳以下には保護者等の助言・指導が必要)がされていることです。映倫(映画倫理機構)の指定理由は「各種違法薬物の使用の描写がみられる」となっていますが、このほか、性的な話題もあり、「Fワード」も頻出。さらに女性のヌードがはっきりと映ったりするので、筆者個人としてはそのレーティングではやや甘いとさえ思えました。

また、詳細は伏せておきますが、アニメ『鬼滅の刃』で見たような「首が斬られて飛ぶ」シーンも1カ所だけあります。なぜポップスターの伝記映画でそんな残酷な場面が……? と思われるかもしれませんが、その意外な演出にも必然性と面白さがありましたし、そこも含めてやはり過激さこそを打ち出した内容なのです。
2:「正しい」主人公じゃない! 幼少期からの父親への愛憎入り交じる感情も重要
PG12指定がされるほどの過激さや下品さは、決して露悪的なだけではなく、本作が描こうとしている物語には不可欠だと思えることが重要でした。何しろ、主人公のロビー・ウィリアムスはちっとも「正しい」人物なんかじゃなく、むしろ自虐的に「ダメで間違っていること」を描く内容だと言ってもいいでしょう。
ウィリアムスが3歳の時に両親は離婚し、父親は息子ではなくスタンダップコメディや歌に全力を注ぐような人物でした。無償の愛を注いでくれたのは祖母の方で、幼少期のウィリアムスが完全に「おばあちゃんっ子」なのはほほ笑ましいものの、息子の自分を放任して夢を追いかけるような父親に、愛憎入り交じる感情を抱き続けていることも伝わるでしょう。

違法薬物にも思いっきり手を出しますし、ついには決定的な失敗もして、大切な人との別れ、人生のどん底も経験します。そんな風に表向きは世界的なポップスターでも、心の内の寂しさや矛盾した行動、時に「それは絶対ダメだ!」と思ってしまうことさえも包み隠さない内容であり、そのためにはPG12指定がされるほどの過激な描写にも必然性があると思えたのです。