ヒナタカの雑食系映画論 第147回

劇場アニメ『ベルサイユのばら』に似ているのは「インド映画」? 原作を知らなくても楽しめる理由

1月31日より公開中の『ベルサイユのばら』が、予備知識ゼロでも楽しめる理由や、インド映画を連想させる特徴などを解説しましょう。(画像出典:(C)池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会)

ベルばら
劇場アニメ『ベルサイユのばら』 1⽉31⽇(金)全国ロードショー 原作:池⽥理代⼦ (C)池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
1月31日より『ベルサイユのばら』が劇場公開されています。原作漫画は、累計発行部数2000万部を突破し、テレビアニメや舞台版も大ヒットした有名作。今回のアニメ映画は、1972年の原作連載開始から50年以上の時を経ての新作となります。

本作は『ベルサイユのばら』をまったく知らなくても、老若男女が楽しめる作品であることを断言します。そして、まさかの「インド映画」を連想させる特徴もあったのです。その理由を解説しましょう。
 

「時代が追いついた」ともいえる、「男装の麗人」のオスカルの物語

『ベルサイユのばら』の舞台は18世紀後半のフランス。主要キャラクターを4人に絞るのであれば、伯爵家の令嬢ながら“息子”として育てられた「オスカル(沢城みゆき)」、愛らしい王妃「マリー・アントワネット(平野綾)」、オスカルの幼なじみで平民の「アンドレ(豊永利行)」、知的な伯爵「フェルゼン(加藤和樹)」です。
ベルばら
(C)池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
それぞれの関係性が尊く思える一方で、戦争や貧困などの問題が巻き起こる時代に翻弄(ほんろう)される物語が大きな見どころとなっています。

特筆すべきは、やはり「男装の麗人」の先駆ともいえる、オスカルのキャラクター性です。聡明で判断力に優れた近衛連隊長かつ剣の達人で、自分の信じた道を疑わずに生きてきたからこそのクールさと、正義感が強いがあまり激情家な面も持ち合わせており、少しずつ内面にある弱さも分かっていく……という、とても愛おしい人物として映ります。
 

りりしさの中に複雑な感情を感じさせる沢城みゆきの声と演技も素晴らしく、「男らしさ」「女らしさ」の押し付けを良しとはしない、人それぞれの生き方こそが尊ばれる現代でこそ、オスカルの物語は複雑な思考を促してくれます。

オスカルは(他キャラクターも)あまりに不自由な時代に生まれ、姉が5人とも女性だったこともあり、男性のように生きることを選んだ。それは自身が真に望んだ人生ではなかったかもしれないが、身分や性別に縛られ過ぎることなく、自分らしく、使命を信じて、常に正しい道を選び取ろうとしていた……そのオスカルの気高さと人生は、誰にも否定されるものではないでしょう。
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(C)池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
そして、原作漫画は単行本にして(外伝・新エピソードも含めて)全14巻にもおよぶ長編ですが、今回のアニメ映画は113分という上映時間に収めています。そのため原作の「ロザリー」や「ジャンヌ」といったキャラクターのエピソードがカットされている(ただしロザリーの登場シーンは今回の映画にもあり、その声は早見沙織が担当)ことを、不満に思う原作ファンもいるかもしれません

しかし、エピソードを絞り恋愛劇を中心に描いたことで、キャラクターそれぞれの、特にオスカルの人生の壮絶さと愛おしさがより際立つ効果を生んでおり、かつ原作を未読でも混乱せずすんなりと入り込める内容となっていたので、1本のアニメ映画に凝縮するための取捨選択は、これ以上ないものだと思えたのです。

それでも、個人的にしっかり描いてくれて良かったと思えたのが、オスカルと「アラン(武内駿輔)」ら軍人たちとの関係性です。オスカルが「わたしを初っ端から女性あつかいしてくれたのはこのフランス衛兵隊だけだ(原作のセリフ)」と皮肉っぽく笑顔で言う様や、その後にオスカルがいかに隊長として慕われていくか……その過程と、アクションの見せ場も楽しみにしてほしいです。
ベルばら
(C)池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会
なお、『ベルサイユのばら』は史実を織り交ぜたフィクションであり、オスカルやアンドレやアランは架空の人物ですが、マリー・アントワネットやフェルゼンは実在しています。本作を機に、フランスの歴史について調べてみるのもいいでしょう。
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