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本作は『ベルサイユのばら』をまったく知らなくても、老若男女が楽しめる作品であることを断言します。そして、まさかの「インド映画」を連想させる特徴もあったのです。その理由を解説しましょう。
「時代が追いついた」ともいえる、「男装の麗人」のオスカルの物語
『ベルサイユのばら』の舞台は18世紀後半のフランス。主要キャラクターを4人に絞るのであれば、伯爵家の令嬢ながら“息子”として育てられた「オスカル(沢城みゆき)」、愛らしい王妃「マリー・アントワネット(平野綾)」、オスカルの幼なじみで平民の「アンドレ(豊永利行)」、知的な伯爵「フェルゼン(加藤和樹)」です。
特筆すべきは、やはり「男装の麗人」の先駆ともいえる、オスカルのキャラクター性です。聡明で判断力に優れた近衛連隊長かつ剣の達人で、自分の信じた道を疑わずに生きてきたからこそのクールさと、正義感が強いがあまり激情家な面も持ち合わせており、少しずつ内面にある弱さも分かっていく……という、とても愛おしい人物として映ります。
りりしさの中に複雑な感情を感じさせる沢城みゆきの声と演技も素晴らしく、「男らしさ」「女らしさ」の押し付けを良しとはしない、人それぞれの生き方こそが尊ばれる現代でこそ、オスカルの物語は複雑な思考を促してくれます。
オスカルは(他キャラクターも)あまりに不自由な時代に生まれ、姉が5人とも女性だったこともあり、男性のように生きることを選んだ。それは自身が真に望んだ人生ではなかったかもしれないが、身分や性別に縛られ過ぎることなく、自分らしく、使命を信じて、常に正しい道を選び取ろうとしていた……そのオスカルの気高さと人生は、誰にも否定されるものではないでしょう。
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しかし、エピソードを絞り恋愛劇を中心に描いたことで、キャラクターそれぞれの、特にオスカルの人生の壮絶さと愛おしさがより際立つ効果を生んでおり、かつ原作を未読でも混乱せずすんなりと入り込める内容となっていたので、1本のアニメ映画に凝縮するための取捨選択は、これ以上ないものだと思えたのです。
それでも、個人的にしっかり描いてくれて良かったと思えたのが、オスカルと「アラン(武内駿輔)」ら軍人たちとの関係性です。オスカルが「わたしを初っ端から女性あつかいしてくれたのはこのフランス衛兵隊だけだ(原作のセリフ)」と皮肉っぽく笑顔で言う様や、その後にオスカルがいかに隊長として慕われていくか……その過程と、アクションの見せ場も楽しみにしてほしいです。
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