フランスは、日本とは比べものにならないほどの学歴社会です。義務教育は3歳から始まり(2019年までは6歳から)、大学へ進学するためには、「バカロレア」と呼ばれる国家試験に合格していることが条件になります。
高校生で、早くも人生の岐路に立たされるフランス
![勉学に励むフランスの若者](https://imgcp.aacdn.jp/img-a/1600/1200/aa_news/article/2025/01/09/677fd82b65013.jpg)
バカロレアには、以下の3種類があります。
・普通バカロレア:文学、経済・社会、科学の3つのコースに分かれている。大学に進学するために必要
・技術・工業バカロレア:IT系、ホテル業・外食産業系、健康・福祉系など専門職希望の場合
・職業バカロレア:パティシエなど、手に職をつけてその道を極めていきたいという生徒たちに向けたもの
この中で、普通バカロレアを取得して大学に進学した場合は、3年後の大学卒業時に「バカロレア+3」のディプロム(修了証)が授与されます。さらに修士課程、博士課程を修了すると、それぞれ「バカロレア+5」「バカロレア+8」のディプロムを得ることができます。
「バカロレア+5」に関しては、将来的に管理職など責任ある地位を目指す場合にとても重要なディプロムです。逆に言えば、ディプロムがあるかないか、そしてその種類によって、将来の給料や昇進の全てが変わります。フランスという社会は、努力でのし上がっていけるような「叩き上げ社会」では決してないのです。
ちなみに、2024年のバカロレア合格率は85.5%に達しました。2005年の合格率は63%でしたから、この数字からもバカロレア取得がどれほど重要視されるようになってきたかが分かります。
つまりフランスの高校生は、どの進路を選ぶにせよ、このバカロレアの取得を目指して必死に勉強する必要があるのです。ディプロムが将来の選択肢を広げる上で重要な役割を果たしているとはいえ、10代の高校生がここまで厳格に進路を決めなくてはいけない現実は、日本ではあまり見られないものではないでしょうか。
もちろん、大学の卒業にも相当な勉強量が必要です。途中で夢を諦めてしまう学生が少なくないことは、誰の目にも明らかでしょう。
エリートコースはさらに難関
さらに、フランスには「グランゼコール」という学校が存在します。グランゼコールとは、フランス独自の「高等教育機関」のことで、歴代の大統領や首相、官僚、大企業の幹部に多くの出身者を輩出している学校です。手短に言えば、フランスを動かす人材を集めた「エリート養成学校」となります。ただしグランゼコールに入学するには、バカロレアで高得点をマークし、さらに2年間の「グランゼコール準備級」を修了している必要があります。学費も非常に高額なため、その人数はフランスの全学生のうち、わずか数%程度だといわれています。進級や卒業はフランス最難関。しかし出身者は、高級官僚や経営者、大手企業の幹部など周囲からも注目を集め、その将来を嘱望されます。
実際に、フランスの現大統領であるエマニュエル・マクロン氏もグランゼコールの出身者です。誤解を恐れずに言うのなら、フランス社会の上層部に行けば行くほどグランゼコール出身者が多くなり、事実上「彼らがフランスを動かしている」ことになります。
フランスがここまでのエリート社会になった背景には、大きく分けて2つあると筆者は思っています。それは、保守的な人々による「貴族意識」の名残と、第二次世界大戦後の高度成長期です。
大戦後のフランスでは、国営化された自動車産業や航空産業、石油産業などのトップに、グランゼコール出身者が続々と配置されました。そしてこの戦略は戦後の発展において大きな成功を収めます。1945年から、だいたい1980年ごろまでのことです。
フランスの人々はこの時代のことを「ゴールデンエイジ(黄金時代)」とよく言っており、エリート教育はこれらの成功体験を基に構築されたものだと思われます。家柄などを重視する貴族的意識もまた、一部のグランゼコールに残されているのがフランスの現実です。