日本人が驚くフランスの「超学歴社会」。新卒採用がほぼなく、高校生の段階で「収入格差」が決まる現実

フランスが厳格な学歴社会であることをご存じでしょうか。自由でのびのびとしたイメージが強いフランスですが、学歴・ディプロマの有無がその後の社会的地位や職業選択に大きな影響を与えています。

ディプロマによって大きく変わる給与と失業率

パリの美術学校
パリの高等美術学校「エコール・デ・ボザール」
以上のことから、ディプロマは「フランスで失業を防ぐ強力な手段」だと言えるでしょう。

事実、2022年のフランスにおける失業率は7.3%でしたが、ディプロマを持たない若者の層では31%に達していました。そして、たとえ職を得たとしても、彼らの給与の中央値は約1100ユーロ(約17万9000円)にとどまっています。参考までに、フランス人の給与の中央値は、2022年で手取り2630ユーロ(約42万8600円)と報告されています。管理職だけに絞ると、平均給与は4490ユーロ(約73万1800円)でした。

とはいえ、INSEE(フランス国立統計経済研究所)が2019年に行った調査によると、大学卒業者の就職率は意外にも低い86%という結果が出ています。「あれほど勉強しなければいけないのになぜ?」と思われるかもしれませんが、これはフランスに新卒採用という特別枠が設けられていないことと、ほとんどの企業が「即戦力」として経験者を採用しているためです。

新卒者は、在学中に行う「インターンシップ」が重要であり、順調にいけばそこでお声がかかることがあります。しかしインターンシップ先で雇用されない場合は、ほかの場所で「CDD(非正規雇用者、期限付き)」として働かなくてはなりません。正社員として採用されるためには、CDDとしての働きぶり+取得したディプロマの内容が評価されるというわけです。

出身の学部を問わずに、希望した会社へエントリーシートを送ることができる日本とは大きく異なるフランスの就職事情。もちろん、就職前にドロップアウトしてしまう学生も少なくありません。フランスのデモに若者が多い理由は、こうした厳しい現実を目の当たりにしているからなのです。

時代が求める新しいスキルも

そんなドロップアウトを避けようと、フランスではディプロマ保有者の数が年々増加しています。しかし増え続けるディプロマ保有者に対しては、採用担当者も頭を悩ませているのが事実。そこで今日では、経験の有無に加え、「ソフトスキル」と呼ばれる特別なスキルが重要視されているといわれています。

ソフトスキルとは、リーダーシップ、適応力、ストレスマネジメント能力、モチベーションなど、雇用主が求める非技術的スキルのこと。学校で身につけるハードスキルとは異なり、ソフトスキルは社会的・家庭的背景から生み出されることが多いとされています。

現在、フランスの採用プロセスでは、同じような学歴を持つ2人の候補者がいるとすれば、仕事にマッチしたソフトスキルを持つ人が選ばれる傾向にあります。このニーズを特徴付けるように、フランスのハローワーク「ポール・オンプロワ」では、ソフトスキルを高める1週間の研修コースが設けられています。

AIの時代に学歴はどうなるのか

一方で、一部のITワーカーの間では、こうした学歴フィルターが意味をなさない場合があるようです。アメリカの影響を強く受けたIT産業は、フランスでも急速に発展している分野の1つ。技術的なディプロムが必要ではあるものの、グランゼコール出身者のような学歴は求められていません。

確かに、グランゼコールを卒業したエリートが、未来のAI時代においても本当に有能なエリートであり続けられるのでしょうか。フランスに長くはびこる格差社会、階層間の「仲の悪さ」を考えると、旧エリート層の肩身が狭まっていく可能性もあります。

世界に吹くAI旋風が、フランスの学歴社会にどのような影響を及ぼすのかは、いまだ未知数です。しかし10年、20年後のフランスには、今とは異なる風景が広がっているかもしれません。

この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
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