AIに負けない子の育て方 第18回

首都圏の中学受験「今年も厳しい」 志願者数増の人気校に見る、“難関大進学”ではない納得のニーズ

近年加熱している首都圏の中学受験。2025年度入試も受験率が高く、「厳しい受験になりそうだ」という予測が出ています。志望者数を増やしている学校の特徴を解説するとともに、最高の合格をつかみ取る方法を紹介します。

グローバル・探究・STEAMがトレンド?

志望者が増えている学校を見ていくと、人気の傾向が見えてきます。かつては中学入試で私学を選ぶ目的の多くが「難関大学進学に有利だから」でした。しかし今は、大学入試の変化もあり、実社会に出た時に必要とされる能力の育成にどれだけ貢献できているかという点が注目されているようです。

そのような意味で、教育内容では、「グローバル」「STEAM」「探究」がキーワード。これは時代の変化と求められる能力の変化に呼応しています。

【グローバル】

グローバルとは、単に英語教育のことを指すのではなく、「グローバルな視点で物事を見て考える力を養う教育」のことをいいます。

具体的には、以下のようなさまざまな取り組みが見られます。

・留学や海外研修制度が充実している
・海外大学進学への道が開かれていたり、国際バカロレア教育(国際的な教育プログラム)を行っている
・日本の高校だけでなく、海外の高校卒業資格も同時に取れるカリキュラム(ダブルディプロマ)を持っている


国際系といわれる学校では、インターナショナルスクールを併設していたり、英語で他教科を学ぶ国際クラスを設けていたりするところもあります。全員がその教育を受けられるわけではないところもあるので注意は必要ですが、これらの学校は既存の教育に疑問を持ち、グローバル社会を念頭においた新しい教育に関心を持つ家庭をターゲットにしています。

志望者増加校の文化学園杉並中学校は、10年前にカナダブリティッシュコロンビア州の海外校として認可が下り、日本と海外の高校卒業資格を同時に取れるダブルディプロマプログラムをいち早く採用した学校です。

また、城西大学附属城西中学校も古くからグローバル教育に強みを持っている学校ですし、八雲学園中学校は国際的な私学連盟「ラウンドスクエア」の加盟校です。

もともと私学の多くは、英語教育に力を入れており、海外研修もある程度行っていますが、最近はその行き先も変わってきています。足立学園中学校では、ラオスやアフリカのタンザニアで「志グローバルプログラム」を実施。佼成学園中学校は、1年生でモンゴル、2年生でフィリピン、3年生でタイに行きます。

また、男子進学校の中にもグローバル教育に力を入れて進化している学校があります。「硬教育」を理念に掲げる努力主義の伝統校・巣鴨中学校は、他に類を見ないオリジナルの海外研修プログラムを確立し、グローバル教育先進校となっていますし、成城中学校もその後を追っています。

グローバル教育が注目を集める理由の1つは、日本経済の低迷です。また、少子化で日本の生産年齢人口が減少し、子どもたちが社会に出る頃には、さまざまな国の人と一緒に仕事をするのが一般的になっていくことを考えると、グローバルに対応できる力を育む教育が期待されるのは当然の流れです。また、海外大学進学に関心がある家庭も増えているので、そのニーズに応えようという動きも活発になっています。

【探究】

新学習指導要領でも重視されている「探究」という言葉が、以前にも増してクローズアップされるようになりました。今や、どこの学校も探究というキーワードを使うようになりましたから、より具体的にどんな活動をしているのか、踏み込んで見る必要があります。

学校によって取り組みはさまざまですが、以下のようなものがよく見られる取り組みです。

・行政や企業と組んでそれぞれの課題を解決するためのプロジェクトを動かす
・個人の興味関心を元に長期にわたって研究を行い、論文にまとめて発表する
・修学旅行の行き先を検討、実施、振り返るところまで生徒主体で行う
・行事の運営を1つのプロジェクト活動と捉え、生徒に主体的に取り組ませる


もちろんこれらも探究ですが、総合の時間だけでなく、教科の枠を超えて生徒自らが課題を見つけて設定し、横断的かつ総合的な学習を行う学校もあります。

探究に力を入れている学校としては、かえつ有明中学校や元麹町中学校校長の工藤勇一氏が改革を進めた横浜創英中学校、自由教育の流れをくむドルトン東京学園中等部など。出口を大学進学だけにおかず、変化する社会を見据えて主体的に生きる力を育む教育を行う学校として、これまでの大学進学をゴールにした中等教育に疑問を持つ層から支持されています。

【STEAM】

STEAMとは、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Art)・数学(Mathematics)の頭文字をとったもの。日本では理系人材が不足しているといわれています。

先ごろ、国際的な学力調査の1つ、TIMSSの結果が発表になりましたが、そこでも日本では理系に関心を持つ生徒が海外に比べて少ないという結果となりました。国も生き残りをかけ、技術革新を担う人材を育てるため、全国にDXハイスクールを設置するなど、STEAM教育に力を入れようとしているのです。

2024年入試でも、芝浦工業大学附属中学校、東京電機大学中学校、東京都市大学付属中学校などが、中堅校の中で理系進学に強い学校として受験生を増やしました。理系の勉強が好きというお子さんなら、実験室の設備やその使われ方、またDXの分野に関する取り組みなどもチェックされるといいでしょう。

伝統女子校の進化に注目

伝統女子校の進化にも注目です。コロナ禍以降、積極的なICT活用、女性活躍のためのさまざまなプログラムの導入、社会とつながる探究活動、高大連携・教育提携などを推し進めている学校が目立っています。

三輪田学園中学校はその筆頭で、立地のよさや環境のよさ、面倒見のよさなども併せ持って安定した人気を維持しています。また昭和女子大附属中学校は、数年前から力を入れてきたグローバル教育に加え、スーパーサイエンスコースを1年生から導入し、「グローバル&サイエンス」教育の先進的女子校へと進化。

跡見学園中学校は、本物に触れる教育という理念を掲げ、芸術科目も重視。知性を磨き情操を養う教育で、自律し自立する女性を育成するという創立時から変わらない教育が再認識されて人気が出ているようです。またトキワ松学園中学校はもともと「探究女子を育てる」という理念を掲げた学校で、探究の先進校といってもいいでしょう。

女子校は、女性の地位が今以上に低かった時代に、女性の自立を目的に創られた学校が多いので、現代でもそのような理念に基づいた教育を行っている学校が多く、時代の変化に素早く反応して進化を遂げられるのでしょう。

また、男子校・女子校ともに、思春期に異性の目を気にせず過ごす中で、自分らしさを発揮し、リーダーシップを育めるのも特徴の1つです。ジェンダーの時代ですが、別学を選べるのは中学受験ならでは。共学と決めつけずに一度は見学に行くことをおすすめします。
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「子どもの可能性を伸ばしてくれる」と人気の学校とは
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