世界を知れば日本が見える 第56回

闇バイトの連絡手段「テレグラム」はなぜ規制できないのか。日本政府が禁止の「考慮」すらできない理由

闇バイトの連絡手段になっている「テレグラム」や「シグナル」などの無料アプリ。これらのアプリを規制することで、犯罪を生み出さない仕組みは作れないのか。そもそも「テレグラム」「シグナル」とは何か。

闇バイトの掲示板規制も、国外運営であれば難しい

闇バイトの場合、闇バイトを募集している掲示板などを摘発できる可能性はあるが、これには基本的にその掲示板サイトが日本国内で運営されている必要がある。もし国外で運営されているとして、日本と関係性のよくない国だった場合は、掲示板などを封鎖させたり、アクセスを禁止にしたりすることは難しい。

一方で、アメリカや欧州など日本と親しい国なら、犯罪の深刻さを考慮した上で、日本の当局の要請に応じてくれる可能性はある。それには手間も時間もかかるし、先にアプリでも指摘した通り、一つの掲示板をつぶしても、また別の掲示板が登場するので効果的な対策とは言い難い。

取れる対策は「啓蒙活動」のみ

こう見ていくと、やはり現実的な対策は啓蒙活動しかない。気楽にSNSでバイトに応募するような危険な行為はやめるべきで、さらにSNSで見知らぬ人に個人情報や家族の情報、身分証の画像などを送ってはいけない。これは怪しいSNSに限った話ではなく、基本的に知らない人から個人情報を要求されても決して応じてはいけないということは、義務教育などでもしつこく教えるべきだろう。

サイバー攻撃でも企業などが被害に遭うのは、人災の場合が少なくない。サイバー攻撃は、怪しいメールで添付ファイルを実行してしまったり、メール内のリンクにアクセスしたりすることでウィルスに感染する。つまりメールを受けた人のミスである。最近では、怪しくないメールを装ってメールによる攻撃をする場合も多いので、さらにだまされやすい。

デジタルネイティブの時代になった今、教育機関などもオンライン上の活動についての啓蒙活動を強化したほうがいいかもしれない。それがわれわれのできる最も現実的な対策だと言える。
 
この記事の筆者:山田 敏弘
ジャーナリスト、研究者。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフェローを経てフリーに。 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)、『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)。近著に『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』(文春新書)がある。

X(旧Twitter): @yamadajour、公式YouTube「スパイチャンネル
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