ファンの“要求”や“抗議”も行き過ぎると「いじめ」になるリスクも
ゆりこ:学校内での古典的、かつ典型的ないじめとして、気に入らない子の机に仏花を置くというものがありますよね。あとはお葬式ごっことか。あれと今回の件、一体何が違うのだろうとは思いました。おっしゃる通り、韓国ではいじめを「校内暴力」と言い換えて、立派な犯罪として厳しく処罰するようになっています。私生活を暴露したり、執拗(しつよう)にアラ探ししたり、盗撮したり、拡散するのは紛れもなく“加害行為”ですよね。何より、スンハンさんの復帰に賛成か反対かということと、加害行為やアンチ運動をするということは別次元の話。心の中で気に食わないと思うのは自由、でも石を投げれば罪になる。
矢野:あと、事務所の対応に対しても疑問を抱きました。あんな花輪、すぐに撤去して彼を守ることはできなかったのでしょうか。直筆の手紙も、よくこのタイミングで書かせて出したなって。本当に自ら進んで書いたのかもしれないけれど……かなり残酷に見えました。
ゆりこ:「会社は彼を守るべきだった」「職務放棄ではないか」という声も上がっていて、後日SMエンターテインメント(以下、SM)に対する抗議デモも行われました。スンハンさんを支持する人たちから、“葬儀用”とは対照的なひまわりのスタンド花がズラリと届けられたりもしています。そしてSMも行き過ぎた行為に対して「法的対処」を宣言しています。
矢野:いろいろなタイミングが「逆だったら」と思いますね。それに今回、お葬式の花輪を送った人なんて“ファンって言えるの?”と疑問を抱かざるを得ない。深読みのし過ぎかもしれませんが、RIIZEの活動を妨害したい人が混じっている可能性もないでしょうか。誰か一人でも彼の周りにいる大人が「これは一部の人間の過激な意見だ、ピークが過ぎるまで静観しよう」「進退を決めるのは今じゃない」って言ってあげられなかったのかな。
ゆりこ: この件に限らず常に実感するのが「マイナスな声はいち早く、より深く相手に届きやすい」ということです。それに、スッと受け入れてくれる人や好意的に見てくれている人はあえて発言、発信していないことだってある。特に今回の場合、まさか決定が覆されるなんて思いもしなかったでしょう。だから反対意見が目立ってしまった。精神状態によっては、5人中4人に肯定されたとしても、1人の否定的な意見が気になって傷ついてしまうことってありますよね。
矢野:あります、あります。味方の声が聞こえなくなって、大多数を敵に回してしまったような錯覚に陥ってしまうこと。
ゆりこ:これは邪推が過ぎるかもしれませんが、事務所側のスタッフもあらゆる数字の動向や抗議の圧に押され、思わず腰が引けてしまったのでしょうか(そこはしっかりしてほしいところ)。たとえスンハンさんが戻ってきたことで一時的にファンが減ったとしても、盛り返してさらに大きくなった後で「そんなこともあったな」って笑えるようになるだけのポテンシャルがRIIZEにはあると思うのですが。
矢野:復帰の決定だって他のメンバーも同意していたはず。外からは見えない絆や思いもあるでしょうし、反発を受ける覚悟もしていたんじゃないでしょうか。
ゆりこ:そう思います。今動いているファンの声が届いて、奇跡の再加入!なんてことは起きないのかな。
矢野:本筋と少し外れるのですが、「推し」「推し活」という言葉に対するネガティブ意見が出てきていると聞きました。最初はあまりピンときていなかったんです。誰かに好きな人を「推薦する」「推める」って別に悪くないよね?って。しかし今回のニュースを通じて別の視点が生まれました。お店でも本でも、人にすすめるときって多少の責任も感じますよね。非や欠点がなるべくないもの、相手に不利益がないものをおすすめしたい。だから回り回って好きなアイドルや著名人に対しても、自分が自信を持って「推せる」よう、完璧さや清廉潔白さ、成功を求めてしまっている部分はないだろうかと振り返りました。生きている他人を「消費している」ということについてもです。
ゆりこ:なるほど、そういった視点を得たのですね。K-POP市場が急拡大し、世界中の若者たちの模範で“あらねばならない”状況になっているのを実感します。優れたパフォーマンス力は大前提として、人間としてもある種の「正しさ」が求められている。夢を見させてナンボの職業であることは否定できませんが、一方で息苦しさも否めません。アラを見つければ非難し、失敗すれば排除しようとする風潮がはびこれば、「いじめの助長・正当化」にもつながりかねないと思います。
矢野:今や、そういった状況や空気感も世界中のK-POPファンたちがリアルタイムで見ていますし、少なからず影響を受けますよね。
ゆりこ:なんだかきれい事ばかりじゃないかと思われたとしても、こういった人権に関わる問題については“良くない”と言っていきたいです。きっとこの件をきっかけに他の事務所、他のグループのファンを含め、K-POPに関わる人たちは少なからず考えることがあると思います。
矢野:今回は“嫌な前例”が出来てしまったと思います。ファンダムの声や力でK-POPが成長してきたのも事実です。しかしエンタメに限らずあらゆる業界で「お客様は神様」な時代は終わったと思います。超えてはいけないラインを超えた人に対してはしっかりNOを突きつけて言いなりにならない姿勢、仕組みを作る必要性を感じました。
【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。
編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやビジネス記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。