イスラエルを招待しなかったのは、本当に“政治的な理由ではない”のか
今回の式典では異例の事態が起きた。長崎市の鈴木史朗市長が7月31日、平和の式典に例年と違い「イスラエルを招待しないこと」を明らかにしたからだ。2023年10月に発生したイスラム組織ハマスによるイスラエルへの大規模テロ攻撃で多くの死傷者が出たことを受け、イスラエルはハマスを殲滅(せんめつ)すると宣言。ハマスが実効支配しているパレスチナ自治区ガザへの攻撃を続け、ハマスが人質として誘拐したイスラエル人などの救出作戦にも当たっている。鈴木市長がイスラエル大使館に招待状を送らなかったのは、その報復攻撃を批判する意図があったのではないかとの声も上がった。記者会見で鈴木市長は、イスラエル大使に招待状を出さなかったのは“政治的な理由ではない”とし、「平穏かつ厳粛な雰囲気の下で式典を円滑に実施したい」という思いで決定したと述べている。つまり、式典会場に反イスラエルのデモ隊などが集まって混乱が起きるのを警戒したから、とした。
ところが、鈴木市長は以前、イスラエルのギラッド・コーヘン駐日大使に宛てて、「被爆地の市民は心を痛めている」と、停戦を求める書簡を送っていたこともあり、本当の動機はイスラエル批判だったのではないかと見られている。
理由はどうあれ、今回の長崎市長の動きは世界で物議となり、日本に対する評判に影響を与えたことは確かだ。その影響がどのようなもので、遺恨を残す可能性があるのかについて、本記事ではインタビューも交えて考察してみたい。
パレスチナを招待し、イスラエルは招待しなかった長崎市
G7(主要7カ国=カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、イギリス、アメリカ)は、鈴木市長の決定が、ハマスによるテロ行為を正当化する反イスラエル的な動きだと見ている。G7の駐日大使らが連名で鈴木市長宛てに書簡を送り、遺憾の意を伝えたことは世界でも報じられた。国外から見ると、平和のための式典が、イスラエルとパレスチナを巡る世界の分断と混乱を再確認させることになったのは間違いない。最終的に誰が式典に出席したのかをまとめた長崎市の資料によれば、長崎市が153カ国に招待状を出した中で、参加したのは101カ国と地域だった。結局、欧州からも20カ国が大使を送らず、G7やオーストラリアなど西側の価値観を共有する国々は総じて大使が出席しないという異例の事態になった。その一方で、日本が国家承認していない駐日パレスチナ常駐総代表部の一等参事官は参加した。