
つい先日には、自動車整備士の転職支援事業を展開するDilecta(ディレクタ)の代表取締役社長がSNSで福利厚生として「モームリ」を導入したと明かした。同社の正社員、契約社員が退職する際に「モームリ」の費用を会社側が全額負担するという。
冷ややかな目もあるが……退職代行の「意義」
このような話を聞くと、「社会人なんだから辞める時くらいちゃんと自分の口で言えないとこの先も苦労するんじゃない?」と冷ややかに見る人も多いだろう。ただ、退職の意思を表明した途端、上司や同僚から嫌がらせを受ける、いわゆる「ヤメハラ」というものが存在しているのも事実だ。総合型転職エージェント・ワークポートの調査では、退職経験者の中で18.9%はスムーズに退職ができていない。こういう人々からすれば、退職代行は次のキャリアに進むために必要なサービスだ。
また、「退職を言い出す」ことも一部の人にはハードルが高い。エン・ジャパンが5168人を対象に調査をしたところ、退職経験者の約半数が退職報告時に本当の理由を「伝えなかった」と回答している。その理由で最も多いのは「話しても理解してもらえないと思ったから」だ。つまり、多くの人は退職を切り出す際には、かなりの孤独と精神的負担を負っているということ。これを軽減するという意味では、退職代行サービスの意義はある。
日本を待つのは陰湿な「ヤメハラ」の加速?
では、このような形で退職代行が普及していく日本はこれからどうなっていくのか。よく言われる「未来像」としては、このようなサービスが注目を集めることで、企業側の退職希望者の扱いが改善していくということだ。「ヤメハラ」のようなものが減少して、退職の話し合いもスムーズに行えるような社会になっていくというのだ。これは「モームリ」が目指しているゴールでもある。同社が元々このようなビジネスをしているのは、「仕事を辞めたくても辞められない・言い出すことができない・現状に苦しんでいる」というような人を支援するということが目的で、最終的には、「退職代行が必要なくなる世の中を目指している」という。実際、同社では自分1人でも退職ができるように支援する「セルフ退職ムリサポ!」というサービスもスタートしている。
しかし、そんな素晴らしいビジョンにケチをつけるわけではないが、「退職代行が必要なくなる世の中」は難しい。日本社会の現実に目を向けると、これから日本は陰湿な「ヤメハラ」がさらに増え、退職の意志を無視したり、強引に引き止めたりということが横行していく可能性が高いからだ。
なぜかというと、これからの日本は熾烈(しれつ)な「若者争奪戦」が始まるからである。