就労人口増加の背景に恐ろしいカラクリ
よく「人口減少」という話を聞くので意外に思うかもしれないが、実は今、日本では「働く人」(就労人口)の数が過去最多となっている。総務省が1月31日に公表した2024年の就業者数は6781万人。これは1953年以降で最も多い。そう聞くと「なんだよ、よく人手不足がどうとか脅すようなニュースが多いけれど、まだまだ日本は安心じゃないか」と胸を撫で下ろす人も多いだろうが、この「人口減少なのに就労人口が増えている」というのは国にとって非常に恐ろしいことだ。出生率が低下して子どもがどんどん少なくなっているのに、働く人が増えたのは「これまで働いていない人を働かせた」ということが大きい。要するに「女性活躍」と「高齢者の再就職」が増えたのだ。
ただ、これは裏を返せば「これが日本の労働力のマックス」ということでもある。女性も含めた生産年齢人口は2024年に約7457万人だったが、2040年には6213万人とフリーフォールのように急減していく。さらには、シニア労働者は加齢によってじわじわと減っていく。そうなれば、6781万人の就業者数で回している日本経済はガラガラと音を立てて崩れていくのは言うまでもない。多くの企業・分野が「人手不足」を理由に倒産するだろう。
「いや、そこは外国人労働者で」というが、日本の平均給与は今や韓国や台湾にも追い抜かされ、ベトナムやタイの都市部では、物価を踏まえれば日本に来て働くよりも条件のいい仕事はいくらでもある。日本で働く外国人労働者は基本的には永住権はなく、日本人より低い待遇で重労働を強いられる「奴隷」のようなものなので、そっぽを向かれつつある。
退職代行はさらに「当たり前」の存在に?
つまり、「日本は深刻な人手不足」というニュースを今もよく見かけるが、実はまだまだ序の口で、本格的にヤバいことになるのはこれからなのだ。そんな弱肉強食の世界で、企業が生き残っていくためにはどうするのかというと、「一度捕まえた労働力を逃さない」ということだ。しかも、死守しなくてはいけないのは日本の労働市場で「希少」となってきた若者である。一方、若者たちからすれば、「深刻な人手不足」は追い風だ。「超売り手市場」ということなので、社会人として経験やキャリアを積めば引く手あまたで、努力次第でより待遇のいい企業へのステップアップも可能。しかし、企業は一度採用した若者を手放したくないので、退職させないようにさまざまな取り組みが進む。大きな会社は待遇や福利厚生を充実させるというやり方ができるが、資本が乏しい中小企業は厳しい。そうなると、できるのは「どうにか退職させない方向へ持っていく」ということしかない。
転職を少しでも匂わせようものなら、上司だけではなく部署ぐるみで思い直さないかと説得にかかる。あるいは、そういう話を一切受け付けず、「お前、辞めたらどうなるか分かってんな?」というプレッシャーをかけるような企業が、今よりもっと増えていくだろう。
ここまで言えばお分かりだろう。就労人口の減少で未曽有の人手不足に陥ることが「確定」している日本社会では、若者の退職は今以上に風当たりが強くなるので、退職代行サービスの出番は増えていく可能性が高いのだ。「え? お前が内定とった会社、モームリ入ってないの? 今どき珍しいブラック企業じゃん」なんて会話が就活生の間で当たり前になる時代が、もうそこまできているかもしれない。
この記事の筆者:窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。