監督の実体験と「思春期の当事者」からの意見も反映
ピクサー作品の多くでは、作り手の実体験が反映されており、そのことが物語をより普遍的に人の心に響くものにし、感動の源になっています。例えば、前作『インサイド・ヘッド』のピート・ドクター監督は、自身の娘が2歳のときに『モンスターズ・インク』を、9歳のときに『カールじいさんの空飛ぶ家』を手掛けるなど、作品を製作する時点での娘の年齢がそれぞれの主人公の子どもの年齢にシンクロしており、娘とのコミュニケーションの経験が作品に生かされているのです。『インサイド・ヘッド』では、11歳になったピート・ドクター監督の娘が引越しと転校をきっかけにふさぎ込んでしまった実体験が反映されていました。今回の『インサイド・ヘッド2』でのケルシー・マン監督も、思春期の娘が2人いたこともあって、主人公のライリーがティーンエージャーだからこそ起こり得るアイデアに焦点を絞り、製作をしていったのだとか。 さらに、今回の『インサイド・ヘッド2』では、趣味も育った環境も異なる9人の10代の女の子たちに、約3年に渡って製作過程の映像を見せて意見を募っていたそうです。ピクサーはこれまでもスタッフから率直な意見を募り、徹底的なリサーチと妥協のないブラッシュアップも繰り返して作品のクオリティを上げてきましたが、今回はさらに思春期の当事者から、「共感を呼ぶ説得力」もより追求したといえるでしょう。
併せて見てほしい、思春期を描いたピクサーの傑作も
ピクサーが明確に思春期を描いた作品は、今回が初めてではありません。2022年の『私ときどきレッサーパンダ』では、はっきりと「生理」を扱っており、しかも「どうにもコントロールできない感情を表に出してしまう」といった思春期特有の言動を「レッサーパンダに変身してしまう」ことを通じて描いた作品でした。それでいてアイドルに夢中のオタクな女の子たちの友情を描く「シスターフッドもの」であり、過保護を超えてほぼ“毒親”となってしまった母親の物語としても、非常に誠実に作られた作品でした。
「思春期」という人生の中で最もセンシティブで、感情も激動を迎えるその時期を捉えたアニメ映画として、『インサイド・ヘッド2』と『私ときどきレッサーパンダ』という2作の傑作を送り出したピクサーに、改めて称賛の言葉しかありません。ぜひ、併せてご覧ください。
この記事の筆者:ヒナタカ プロフィール
All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「CINEMAS+」「女子SPA!」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。