トランプ氏の考える「アメリカファースト」の政治経済
では「確トラ」になった場合に、世界はどう変わるのか。最大の変化は、露骨なアメリカ第一主義(アメリカファースト)が復活することだろう。それによって、世界の調和が乱れる可能性がある。第一次トランプ政権(2017~2021年)は、例えば、世界で協力して温暖化対策の排出量制限をする枠組みのパリ協定から速攻で離脱した。理由は、トランプ氏に言わせれば、経済大国のアメリカが損をするからだ。バイデン大統領は就任後に改めてパリ協定に復帰したが、トランプ氏が再び大統領になればまた離脱する可能性がある。
経済を見ると、トランプ氏は現在「アメリカの全輸入品に10%の関税を課す」と主張している。そうなると、ほかの国々が逆にアメリカから来る輸入品に関税をかける報復合戦になると指摘されている。そうなると世界の交易が不安定に混乱し、世界経済が縮小する可能性がある。
日本であれば、現在、日本の普通乗用車をアメリカに輸出する場合は関税が2.5%だが、それが10%になれば、アメリカで日本車が売れなくなる可能性がある。
また中国製品に対しては60%以上の税金を課す可能性があると発言しており、そうなると報復合戦などで中国との経済摩擦も深刻になるだろう。
戦争への影響、軍事介入の可能性は?
防衛などの安全保障面でも、トランプ氏はアメリカと欧州の軍事同盟であるNATO(北大西洋条約機構)を軽視して同盟内に緊張感を生み、アメリカが自国第一主義でNATOから距離を置く可能性がある。現在、ロシアによるウクライナ侵攻は、NATOの役割などで欧州諸国を苦慮させているが、トランプ氏はウクライナ侵攻について「24時間以内」に停戦させられると豪語している。確かにそうなれば、世界的には紛争による犠牲者の減少をトランプ氏が実現するかもしれない。中東でも、現在、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの軍事行動で犠牲者が多く出ている状況だが、中東にも影響力を維持するトランプ氏は、バイデン大統領よりも、イスラエル軍による軍事行動に介入していく可能性がある。3月にイスラエルメディアのインタビューに応じた親イスラエルのトランプ氏は、イスラエルに対して「最後まで仕事を成し遂げて、平和に向かわなければならない」「明らかにPRとして失敗している」と発言し、大統領になれば関与する気満々だと見られている。
台湾情勢、在日米軍……日本への大きな影響も
日本に影響がある台湾情勢についてもトランプ氏は絡んでくる。中国は台湾を自国の領土であるとみなし、平和統一を目指すとしている。そして台湾の独立などの動きに反発し、中国の習近平国家主席は台湾情勢については武力行使も辞さないと発言している。台湾情勢についてトランプ氏は安全保障と経済を結びつける可能性が高い。台湾は先端技術などで欠くことのできない半導体ビジネスで世界の中心地となっているが、トランプ氏は最近「台湾は我々から半導体ビジネスを奪った」と話しており、台湾へ対中国の安全保障面で協力を強化する代わりに、半導体分野のビジネス面で台湾からアメリカファーストになるような好条件を引き出そうとするだろう。これについては、筆者も台湾でビジネス関係者らの懸念を耳にしている。
安全保障では、日本にも直接的な影響がおよびそうだ。特に在日米軍。トランプ氏は世界各地にある米軍基地を「カネの無駄」として閉鎖する可能性が懸念されている。もちろんアメリカ政府は自国の影響力を行使するために適所に米軍を置いているのだが、トランプ氏はそれを真っ向から批判してきた。そして日本にある米軍もカネがかかるとして、安全保障を提供している見返りにさらなる在留経費の負担を日本に求めてくる可能性がある。