日本では知られていない「K-POP第1世代」と“ブラックミュージック”の密接な関係

K-POPを語る上でよく話題に上がる「第〇世代」とは何なのか。追求していくと、第1世代とブラックミュージックの密接な関係が明らかに!? K-POPのルーツについてゆるっとトークします。※サムネイル画像:The Mega Agency/アフロ

K-POPと“ブラックミュージック”の密接な関係

ゆりこ:先ほど友人がアメリカで韓国系の友人にS.E.S.を教えてもらったというエピソードをお話ししましたが、第1世代グループにはすでに在米アメリカ人のメンバーがおり、制作側にもアメリカ帰りの人がいたのも大きいと思います。BLACKPINKのプロデューサーと知られるテディさんも1TYMのメンバーで、アメリカ出身です。

矢野:J.Y. Parkさんも多感な時期をアメリカで過ごした帰国子女でしたよね。テレビで流ちょうな英語を話されていました。そしてSMの創業者、イ・スマンさんは?

ゆりこ:まさに今、スマンさんの話をしようと思っていました。今回お話しするにあたって調べてみたところ、興味深い情報がいろいろ出てきまして。元々歌手だった彼が、なぜプロデューサー側に回ったのか、という話です。80年代の全斗煥大統領時代までさかのぼるのですが、政府によるメディア統制に失望したスマンさんは、韓国でのキャリアを捨ててエンジニアになるべくアメリカの大学へ留学するんです。

矢野:歌手からエンジニア? すごいキャリアチェンジですね。だんだん歴史の勉強みたいになってきました。

ゆりこ:当時のアメリカはMTV(音楽専門チャンネル)が開局したばかり、今では当たり前となった「ミュージックビデオ」の時代が始まるわけです。映画やドラマなど“映像が主役で音楽はあくまで脇役”という価値観からのパラダイムシフトが起こりました。スマンさんはそれに衝撃を受け、再び音楽業界でアーティスト育成を目指して帰国します。

矢野:アメリカで吸収した音楽カルチャーを自国に持ち帰ったと。前回の話にもつながりますね。

ゆりこ:前回触れたヒョン・ジニョンさんも当時としては斬新なB-BOYだったそうです。で、そのヒョン・ジニョンさんやDEUX、スマンさん、YGの創業者ヤン・ヒョンソクさん、あのJ.Y. Parkさんも常連だったというクラブが韓国・梨泰院にありまして。「ムーンナイト」というお店なんですけど。

矢野:今年の5月に韓国へ旅行に行ったとき梨泰院にも立ち寄ったのですが、街に韓国以外の海外感を覚えました。お店の雰囲気や建物などがどことなく海外っぽくて。日本人の僕からすると韓国自体が海外なんですが(笑)。クリエィティブ関係者が多く住む街とも聞いています。

ゆりこ:悲しい事故もありましたが、やっぱり梨泰院って特別な街なのだと思います。残念ながら「ムーンナイト」はもう閉店してしまっているのですが、K-POP誕生の地とも言えますよね。そこがどんな場所だったかというと、元々は米軍兵士のためのクラブだったんです。

矢野:見えてきました。その「ムーンナイト」がアメリカの音楽と韓国のミュージシャンや音楽関係者が“出会う場”だったということですね。

ゆりこ:まさに。店内ではヒップホップを中心としたブラックミュージックがかかっていて、黒人兵士からダンスを教わる韓国人もいたようです。中でもスマンさんは見込みがある若者を「ムーンナイト」で探したり、そこでダンス修行をさせていたというエピソードも。

矢野:なかなかに原始的な方法……! ただ、当時は今のような練習生制度や育成制度はなかったでしょうから、現地に赴くのが早そう。多様な文化が入り混じるからこそのシナジーが生まれていたのかもしれません。

ゆりこ:K-POPアイドルの曲には自然とヒップホップ要素、ラップが入ることが多いですよね。その原点は「ソテジワアイドゥル」とも言われていますが、ヤン・ヒョンソクさんはそのメンバーです。今でもYGがヒップホップ色強めなのは、スタート地点に理由がある。

矢野:タイムスリップして「ムーンナイト」をのぞいてみたい……。“K-POPの始まり”をこの目に収めたい!

ゆりこ:初めにお話しした通り、すでにK-POPは「第5世代」まで来ています。韓国国内だけではなく北欧などを中心に世界中のコンポーザーたちが曲を提供していますし、全てがブラックミュージックに通じているわけではありません。昨今“イージーリスニング”なんていうワードも飛び交っていますし、日々変化を感じています。でもやはり根本の部分でアメリカから来たブラックミュージックの影響は消えていないと思いますね。

矢野:少女時代やKARA、BIGBANGなど僕がK-POPを聞き始めた第2世代と第5世代を聞き比べると、いろいろな違いを感じます。もしも事前情報なしにK-POP初心者がそれぞれの曲を聞いたら、同じK-POPとは思わないかもしれません。ただし、こうした時代による音楽スタイルの変化は何もK-POPに限った話ではないはず。マイナス影響ではなく、むしろ好影響で、ひと言では言い表せないほどにK-POPが発展、進化しているということではないでしょうか。K-POPのこれからに期待が高まります!

<参考>
『日韓ポピュラー音楽史―歌謡曲からK-POPの時代まで』 金成玟(慶應義塾大学出版会)
『K-POP現代史―韓国大衆音楽の誕生からBTSまで』 山本 浄邦(筑摩書房)
Special Thanks:K-POPゆりこと仲良しの韓国人オッパ&オンニたち
 

【ゆるっとトークをお届けしたのは……】
K-POPゆりこ
:韓国芸能&カルチャーについて書いたり喋ったりする「韓国エンタメウォッチャー」。2000年代からK-POPを愛聴するM世代。編集者として働いた後、ソウル生活を経験。

編集担当・矢野:All Aboutでエンタメやメンズファッション記事を担当するZ世代の若手編集者。物心ついた頃からK-POPリスナーなONCE(TWICEファン)&MOA(TOMORROW X TOGETHERファン)。
 

※記事初出時、本文に誤りがありました。お詫びして訂正いたします(7月30日15時00分:編集部追記)

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